記事閲覧
一方で彩の榊は、取引先の(株)オークネットから佐藤の携帯に直接電話がかかってくる。同社はインターネットによるフラワーオークション事業を手掛けている。登録している生産者に、電話で出荷できるかどうかをたずね、無理であれば別の生産者に当たる。これに対して佐藤は注文があれば必ず引き受け、翌日には出荷する。同社に登録している榊の生産者の中では最も対応が速い点で評価されているという。
他の生産者にできない迅速な対応が、なぜ彩の榊にはできるのか?
「うちは山の資源が豊富ということもあるけれど、それよりも生産者の意識の違いですね」
では、その意識はどこで培われたのだろうか。生花店をしていた経験が生きているのではないか? そのことを問うと、「そうですね。もともとは生産者に要望する立場だったから、いま逆の立場になって、お客さんが何を望んでいるかがよく分かるんです」
顧客第一主義を貫くことで、販売価格は自信を持って1俵(5kg)5000円をつけている。これは国内トップクラスの値段だ。周りからは高いと言われるが、それでも買ってくれる人がいる。年間の売り上げは11年度が2200万円、12年度が3000万円と順調に伸びている。
あらゆる要望に応えるのは楽ではない。今年は休みなく働くことになりそうだという。生産者の仲間には「そこまでお客さんの要望に応えていたら、店がつぶれちゃうんじゃないの」と心配されることがある。でも、佐藤は今の姿勢を変えるつもりはない。
「お客さんの求めに応じていれば、つぶれることはないと思うんですよ」
日本一の葉物屋へ
彩の榊は6月1日、農業生産法人として認可された。第一弾として、福祉事業を展開する(株)ゆうあいホールディングス(神奈川県横浜市)の(株)ゆうあい農園と連携することが決まった。同社が横浜市に所有する1万坪の農場で、障害者が8万本の榊と樒(しきみ)、ユーカリの苗木を作る。1年以上かけて育てるその苗木を今度は東京青梅に持ち帰り、彩の榊が周辺の畑で成木にしてから伐採して最終商品に仕上げる。それを、ゆうあい農園で作っている野菜と一緒に神奈川県内で販売していく。
作業場の隣にあるハウスに連れていってもらうと、そこにはすでにユーカリの苗があった。最も好きなこの植物を、今度こそ商品化しようと思っている。
ハウスではほかに狭山茶の苗木も育てている。生産と販売を計画しているという。県の生産組合が出荷する苗木は、主な流通先は生産農家向けであって、一般向けにホームセンターや直売所などに並ぶことはまずない。でも、生産農家でなくても家庭菜園で茶葉を育ててみたいという人たちはいる。
会員の方はここからログイン
佐藤幸次 サトウコウジ
(株)彩の榊
代表取締役
1979年3月、埼玉県飯能市生まれ。高等学校を2年生で中退後、実家の生花店を手伝う。2011年3月にああ(株)彩の榊(従業員13人)を設立。国産榊を生産して、主に東日本向けに販売している。この取り組みが評価され、(株)農業技術通信社主催の「A―1グランプリ2012」で『農業経営者』賞を獲得。2013年6月1日には農業生産法人を立ち上げた。
農業経営者ルポ
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)