ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

女の視点で見る農業経営

休暇や報酬は家族だからこそ明確に

 当の栗栖家でも、年俸制を決めたのは子育てや家の改築キュアリング倉庫の整備など、家の大事業が一段落してからだった。喜子さんが昇さんに切り出して、そうしようということになった。 

「だから、皆さんに言うんです。自分の休みや報酬がほしかったら、まずご主人に自分から言いなさい。黙って待っていても状況が変わるわけがない。それから外に出て自分の家を見てみなさいって」

 喜子さん白身、昭和60年に農協婦人部主催の「若妻短期大学」を受講した。その中で農業技術はもとより、農家の女性にまつわる税金、法律などについて学んだことをきっかけに、意識的に”外”の世界に出るようになったという。

 家から一歩外に出てみれば、働く人に労働に見合った賃金や休日が与えられるのは当然だということに気づく。また、同じような状況に悩んだり、改善を求めているのは自分だけではないということもわかってくる。

 現在は、「香取女性農業経営者会議」や「全国女性農業経営者会議」の会員としても活躍し、意見交換や実例発表のセミナーに積極的に参加している。昨年は北京で開催された「世界女性会議」にも参加した。

 そんな活動を通して、喜子さんは自分自身の体験をこれからは広く仲間に生かしていってもらいたいと考えている。とくに提唱するのは「家族経営協定の文書化」だ。家族で事業展開していく場合、それぞれの役割分担、報酬の金額や支払い時期を明記した文書を残す。そうすることで責任の所在や経営者としての位置づけが明確になる。

 まだ実践している家は少ないが、妻の経営者としての地位を確保するためだけでなく、将来若い世代と共同で取り組む際にも必要なものだ。栗栖家の3人の息子たちの誰が後継者となるかは、まだ決まっていない。しかしいつかバトンタッチする日のためにも、家族間の労働条件は明確に整備しておくべきだと考える。 

「ああ、週に1日ぐらいお休みがほしいなとか、1日8時間労働ならいいのにとか、昔の私の希望は愚痴でしかありませんでした。若い人たちに同じ愚痴を言わせないように準備するのも私たちの役目。休みや報酬は、家族だから曖昧にするんじゃなく、家族だから明確にしていくべきなんです」

 その溌剌とした笑顔からは想像できないが、喜子さんは一時、「このままじゃ、私は糠味噌臭くなってしまう」とそんな不安感に苛まれていたという。農作業と家事、育児に追われ続けていた頃のことだ。その一方で昇さんは、仲間と広く親交を結び農業に関するさまざまな情報を得ていた。なんだか自分だけが取り残されてしまうような焦燥感があった。

 けれど、今は違う。 

「お父さんにはお父さんの、私には私の集まりがあります。やらなきゃいけないこともいっぱい!」

 栗栖さん夫妻は名実ともによき共同経営者(パートナー)であると同時に、よきライバルでもあるのだ。(三好かやの)

関連記事

powered by weblio