記事閲覧
――農薬を使わないと農作物の収量はどのくらい減るのでしょうか。
日本植物防疫協会が数年にわたって試験した結果によれば、ある程度、収穫できる作物もありましたが、ほとんどは減収となり、なかには収穫が皆無になる作物もありました。最も被害が目立ったのは果樹で、特にリンゴがひどかったです。調査した初年度、さまざまな病害虫が発生してリンゴの木が衰弱し、販売可能なものはほぼ育ちませんでした。翌年、農薬散布を復活した地域も前年度の影響で着花数が減って収量が伸びず、2年連続で無農薬栽培を試した地域にいたってはまったく収穫がなかったそうです。
その他の作物でも無農薬栽培を試した圃場と防除区を比較すると、春~秋穫りのキャベツは70%の収量減、水稲は20~30%減で出荷金額が20~40%減。トマトのある減農薬栽培の例では疫病で枯れて収量が90%以上減るなか、同じ試験地で農薬を使用した作物ではほぼ完全に発病を抑えたという報告があります。こうした結果から、農薬を使わないと収量が低下するだけではなく、収穫物の品質も低下し、ひいては出荷金額も減少すると考えられます。
――農薬の必要性はこれで分かりました。では、病害虫に効果のある農薬は人間にとって安全なのでしょうか。
同じ化合物でも生物によって感受性は変わってきます。こうした感受性の違いをうまく活用し、病害虫だけに有効で人には影響の出ない農薬や、作物に影響を与えず、雑草のみに効き目を持つ除草剤などが開発されています。
一例を挙げますとキチン合成阻害剤があります。脱皮しながら成長する昆虫の外皮はキチンという物質で作られていますが、この農薬を虫にかけると脱皮できなくなって成長が止まるとともに、作物に害を与えることができなくなります。しかし、これを哺乳(ほにゅう)類に与えても脱皮自体しませんから効果はありません。こうして選択性を追求していけば除草剤でも作物には影響を与えず、雑草だけを枯らすものの開発が可能になります。
――ということは農薬は人が浴びても危険ではないのでしょうか。
いいえ、すべての農薬が人に対していつでも安全とはいえません。ラベルに書いてある使用上の注意事項、マスクや保護メガネなどの保護具の着用、使用濃度や収穫前日数などを守ることが重要です。
――農薬の安全性はどのようにして確かめているのでしょうか。
農薬を製造・販売・使用するには国の登録を受ける必要があり、そのためにさまざまな試験結果を提出しなければなりません。毒性に関する試験だけでも30種類近くに及びます。
会員の方はここからログイン
編集部
特集
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)