ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

シリーズ水田農業イノベーション

こんな水田イノベーションについてどう思われますか?

TPP参画。コメ農業、水田農業改革はいよいよ待ったなしだ。品質だけでなく生産コストにおいても現段階のTPP参加国のコメ農業に対してなら一定の競争力を持ち得るという人々もいるであろう。しかし、想定される10年程度の猶予期間でどれだけの経営体力を付けられるのか。やがて現段階のTPP参加国にとどまらず、より広い地域との競争を迫られる時代が来る。さらに、米国やオーストラリアだけでなく、ベトナムなどの良質米生産にはハンデを持つ国でも技術レベルを上げてくるだろう。中国もまた然りである。それへの対応には、政策的対応も当然あるだろうし、ひとり農業経営者だけの努力で解決できることでもない。コメに関わるすべての業界人が協力して、日本のそして海外の顧客に”必要とされて選ばれる、日本のコメ産業を再建する必要がある。その中心的役割を担うのは生産者である。水田農業経営者は自らのチャレンジによって水田農業にイノベーション(創造的破壊)を起こすべき時なのである。改善の余地が沢山あるとは可能性も大きいということだ。単価と交付金を気にしても経営利益をどれだけ考えてきたか。品種や生産品目の選択、機械利用のあり方、顧客や取引先との関係、経営組織、高齢農家の撤退への対応……。逆に、それに対する技術的対応は? 今月号は、トウモロコシを含む大豆や麦などの穀物飼料生産に関しての問題提起である。1960年代中期以降、穀物飼料生産はまったく行なわれてこなかった。粗飼料としてのデントコーンではなく子実トウモロコシをつくるという本誌の提案。それに対して、農業経営研究の専門家である梅本雅氏((独)農研機構・中央農業総合研究センター)も、当惑を隠さない。しかし、林芳正農林水産大臣も子実トウモロコシを含めた穀物飼料生産を検討すべきテーマであるとの認識を示している。水田農業イノベーションのシリーズを始めるにあたって、梅本雅氏に本誌の考えに対する感想を伺ってみた。


飼料用作物の可能性


昆吉則(本誌編集長) よく農業経済学の先生方は、稲作経営のコストダウンは農地が集積されていないので10haくらいで頭打ちになるとおっしゃる。統計的にはそうなのだろうと思います。でも、岩手県花巻市の盛川周祐さんは農地が集積されていませんが、1俵約6000円でつくっています。その理由は、水稲でも麦でも大豆でもその他の作物でも、種を播くまでの技術体系はプラウをベースに共通だから。コメではレベラーをかけて乾田直播。雨で乾田播種ができない場合には、水を入れて無代掻きでの堪水直播や移植もする。結果として低コストになる。TPPでコメのコスト問題がよく語られるのですが、我が国の水田経営をコメだけで語るのではなく、少し発想を自由にすべきなのではないでしょうか。
他の人はできないことをやる人がいるから現在の地平を超えられる。ホンダでもソニーでもトヨタでも、皆そうであり、それは農業でも同じことのはず。研究者や行政官がそう言うのはともかくも、経営者が「10haでコストダウンが頭打ちになる」なんてことを語るのは、自らがチャレンジしないことの弁解に過ぎない。もっとも、価格よりも納得される別の顧客満足を作ることを目指そうというのなら話は別ですが。

梅本雅((独)農研機構・中央農業総合研究センター企画管理部長) 基本的には同じ考えです。僕は経営者の視点から見るようにしていますので。盛川さんからもよくお話を聞いていて、乾田直播の様子も見ています。鳥取の田中正保さんもそうです。基本的にはああいう人達の取り組みがある意味先行的で、また、重要な動きだと思いますし、そういう動きを加速させていくことが重要だと思っています。
昆 もともと、多くの水田経営者は、交付金は別にしても、コメと麦の機械が共通だから機械償却を早め、稲単作よりも収益を確保しているはずです。本誌読者で麦や大豆をつくっている方は、収量も品質も地域の平均からすればはるかに上です。でも、大豆などでは汚粒が出て規格を下げられるからといって、収穫時期になっているのに何日も作業待ちをせざるを得ないでいる。もし、汚粒を気にせず飼料用として売れれば、単価は安くても、むしろその方が収益が上がるという経営もあるでしょう。現在の所得安定対策の制度では、水田活用の飼料作で作物助成の3万5000円は受け取れますが、数量払いは対象になりません。もし、これが受け取れるなら経営は充分に成立すると言う読者がいます。北海道では反収500kgくらいとれる品種も既に登録されているそうです。
その実現のためには、作物の規格基準を時代やマーケットに合わせて変えるだけでなく政策の変更も必要です。穀類としてのトウモロコシを含めて、大豆や麦も飼料用としてつくって売れる仕組みや経営を考えてみたらどうでしょう。他の国では食用か飼料用かを農家自身が自由に選んでいます。水田農業のイノベーションの手段として、水田での穀物飼料作をもっと伸ばすということを考えられないのか。加えて、汎用コンバインがトウモロコシにも適応性を持てば我が国の水田農業って相当変わり得るのではないでしょうか。


コメ以外の選択肢

梅本 おっしゃったことを具体化していくには、いくつか論点があると思うんです。まず水田の利用の仕方をどう変えていくかという問題。現実的には、やはりまだ水田はコメをつくる所だと思っておられる人が多い。水田をコメも大豆も麦も野菜もつくれる、給水が可能な整備された圃場として考える。水が必要な時には水を入れて水稲をつくる。それから畑作物がいい時には水を落として大豆、麦、飼料作物をつくるという、そういう状況を作っていく必要があるんじゃないかなと思います。
ただし、水田は社会的ストックとして整備されてきたわけですが、その維持管理が十分できないという問題も出てきています。この水路などの維持管理がどこまでできるかという問題も考えていく必要があるのかなと思うんです。

昆 水系単位の経営ができるかということと、水系のメンテナンスをどうするかが問題なのはそのとおりです。しかし、盛川さんや田中さんを見ていると「水田というのは水の張れる畑なんだ」と思えるのですね。それで彼らは利益を上げている。実は、盛川さんの辺りは石の多いザル田が多く、水をためる方が大変なんだそうです。トウモロコシを播いたところも周りの人の選択肢にはコメしかない。お米をつくらないことに後ろ指をさされるかのような気持ちを持っているのかもしれない。そういう社会的気分というか文化が農業のイノベーションを押し止めていますよね。

関連記事

powered by weblio