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【シリーズ水田農業イノベーション】
こんな水田イノベーションについてどう思われますか?
- 編集部
- 第1回 2013年06月14日
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飼料用作物の可能性
昆吉則(本誌編集長) よく農業経済学の先生方は、稲作経営のコストダウンは農地が集積されていないので10haくらいで頭打ちになるとおっしゃる。統計的にはそうなのだろうと思います。でも、岩手県花巻市の盛川周祐さんは農地が集積されていませんが、1俵約6000円でつくっています。その理由は、水稲でも麦でも大豆でもその他の作物でも、種を播くまでの技術体系はプラウをベースに共通だから。コメではレベラーをかけて乾田直播。雨で乾田播種ができない場合には、水を入れて無代掻きでの堪水直播や移植もする。結果として低コストになる。TPPでコメのコスト問題がよく語られるのですが、我が国の水田経営をコメだけで語るのではなく、少し発想を自由にすべきなのではないでしょうか。
他の人はできないことをやる人がいるから現在の地平を超えられる。ホンダでもソニーでもトヨタでも、皆そうであり、それは農業でも同じことのはず。研究者や行政官がそう言うのはともかくも、経営者が「10haでコストダウンが頭打ちになる」なんてことを語るのは、自らがチャレンジしないことの弁解に過ぎない。もっとも、価格よりも納得される別の顧客満足を作ることを目指そうというのなら話は別ですが。
梅本雅((独)農研機構・中央農業総合研究センター企画管理部長) 基本的には同じ考えです。僕は経営者の視点から見るようにしていますので。盛川さんからもよくお話を聞いていて、乾田直播の様子も見ています。鳥取の田中正保さんもそうです。基本的にはああいう人達の取り組みがある意味先行的で、また、重要な動きだと思いますし、そういう動きを加速させていくことが重要だと思っています。
昆 もともと、多くの水田経営者は、交付金は別にしても、コメと麦の機械が共通だから機械償却を早め、稲単作よりも収益を確保しているはずです。本誌読者で麦や大豆をつくっている方は、収量も品質も地域の平均からすればはるかに上です。でも、大豆などでは汚粒が出て規格を下げられるからといって、収穫時期になっているのに何日も作業待ちをせざるを得ないでいる。もし、汚粒を気にせず飼料用として売れれば、単価は安くても、むしろその方が収益が上がるという経営もあるでしょう。現在の所得安定対策の制度では、水田活用の飼料作で作物助成の3万5000円は受け取れますが、数量払いは対象になりません。もし、これが受け取れるなら経営は充分に成立すると言う読者がいます。北海道では反収500kgくらいとれる品種も既に登録されているそうです。
その実現のためには、作物の規格基準を時代やマーケットに合わせて変えるだけでなく政策の変更も必要です。穀類としてのトウモロコシを含めて、大豆や麦も飼料用としてつくって売れる仕組みや経営を考えてみたらどうでしょう。他の国では食用か飼料用かを農家自身が自由に選んでいます。水田農業のイノベーションの手段として、水田での穀物飼料作をもっと伸ばすということを考えられないのか。加えて、汎用コンバインがトウモロコシにも適応性を持てば我が国の水田農業って相当変わり得るのではないでしょうか。
コメ以外の選択肢
梅本 おっしゃったことを具体化していくには、いくつか論点があると思うんです。まず水田の利用の仕方をどう変えていくかという問題。現実的には、やはりまだ水田はコメをつくる所だと思っておられる人が多い。水田をコメも大豆も麦も野菜もつくれる、給水が可能な整備された圃場として考える。水が必要な時には水を入れて水稲をつくる。それから畑作物がいい時には水を落として大豆、麦、飼料作物をつくるという、そういう状況を作っていく必要があるんじゃないかなと思います。
ただし、水田は社会的ストックとして整備されてきたわけですが、その維持管理が十分できないという問題も出てきています。この水路などの維持管理がどこまでできるかという問題も考えていく必要があるのかなと思うんです。
昆 水系単位の経営ができるかということと、水系のメンテナンスをどうするかが問題なのはそのとおりです。しかし、盛川さんや田中さんを見ていると「水田というのは水の張れる畑なんだ」と思えるのですね。それで彼らは利益を上げている。実は、盛川さんの辺りは石の多いザル田が多く、水をためる方が大変なんだそうです。トウモロコシを播いたところも周りの人の選択肢にはコメしかない。お米をつくらないことに後ろ指をさされるかのような気持ちを持っているのかもしれない。そういう社会的気分というか文化が農業のイノベーションを押し止めていますよね。
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