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【編集長インタビュー】
トウモロコシも可能性を追求してみるのは面白い
- 農林水産大臣 林芳正
- 2013年06月14日
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子実トウモロコシの可能性
昆吉則(本誌編集長) 今日ご提案したいのは国産の飼料用トウモロコシのことなんです。事前にお渡しした資料の通り、北海道長沼町の柳原孝二君という農業者が昨年作ってみたんですよ。
林芳正(農林水産大臣) 柳原さんは、A-1グランプリ(主催・農業技術通信社)で優勝されたんですよね?
昆 そうなんです。日本では肉食がここまで進んできたにもかかわらず、水田利用はコメ偏重で来たことを振り返れば、これまでの政策はなってなかったと思うわけです。単に自給率の問題だけではなく、これから円安・ドル高が進めば、海外から餌を調達することが困難になる事態が本当に起こりうるのではないか。そのときに不足するとすれば、それはやはりトウモロコシだろうと危惧するんです。だから国内で作ることを真剣に考えるべきではないか、と。
林 水田で飼料用トウモロコシを作るということですか?
昆 この資料を見てください(30ページ参照)。一番上が日本のトウモロコシの現状です。収穫面積は68ha。
韓国ですら1万6000haで作っている。アジアのコメ食文化の国々は増産しているんですよ。EU諸国にしてもですね、輸入はしながら、国内でも生産しています。
林 なるほど。
昆 気象条件からすれば、トウモロコシの収量はオランダやドイツより日本のほうが、北海道を除けば上げられる可能性がある。それ以上に、それを実現することで水田農業のイノベーションになるのではないか、と。
実は明日ですね、岩手・花巻の読者の農場で餌用のトウモロコシをまくんです。近くの読者が外国製のコンバインを持っているのですが、彼は国産の汎用コンバインを持っていて、秋にはそれでも収穫します。まあ、それでトウモロコシを収穫するのはまだなかなか難しいんですけれどね。
林 トウモロコシは汎用の範疇(はん ちゅう)に入っていないわけですね。
昆 その技術開発には独立行政法人の研究機関にも支援してもらいたいんです。これはTPP対策にもなります。もし日本がTPPに参加するとして、自由化までには10年はある。それまでにコメだけでなく、経営全体として機械の利用頻度を高めていくことが、水田農業経営を強くしていくことになります。5年、10年すれば放っておいても高齢者は離脱しているわけですから、規模は自然と大きくなる。それまでにプロ農家に餌用のトウモロコシを作ってもらえばよいのではないか、と。
林 面白いアイデアですね。
昆 このことは日本のコメ農業を強くすることにもなるんです。コメだけではなく、穀物経営全体、水田農業全体のコストダウンになるんですから。
林 なるほど。コストダウンになればいいですね。
昆 従来の専門家たちは日本でトウモロコシを作ることは想定してこなかった。あくまでも食用の麦や大豆だけで。今だからこそ、未来から逆算してチャレンジできることをやるべきですよ。
林 やってみれば可能性は見いだせるというものがあるのではないかと感じますね。
昆 今、トウモロコシに取り組んでくれる人たちは、彼らのリスクでやってくれるわけですよ。大手機械メーカーにも協力を依頼しているところです。今年は4人やるんですが、来年は30人くらいにお願いしてね、それで6次産業化の予算か何かを利用できないかと思っています。
林 「ウスケボーイズ」というワインはご存じですか? この間、知り合いからもらったんです。要するにワイン用のブドウというのは国内では作ってなかった。というか、作れないと言われていた。それを、山梨や長野の人たちがいろいろな努力をされてね、今は堂々と作っていらっしゃるわけですよね。だからトウモロコシもですね、今まではできないと思ってきたけど、まあ、やってみればいろいろな工夫次第でできる可能性があるんではないかと感じます。
昆 日本も1960年の始めごろまでは、トウモロコシを11万t作っていたわけですよ。それが選択的拡大のなかで、一気にゼロに近くなってしまった。それ以来ずっとそのままなんですね。
林 マクロ的な視点で見れば、日本の水田では食用のコメを作っているところが3分の2。残り3分の1は主食のコメ以外のものを作る、と。稲のホールクロップサイレージ(WCS)もあるし、米粉もあるし、餌米もある。トウモロコシも餌米を作るのと同様と考えますが。
昆 いや、コメとトウモロコシは飼料としての価値からすれば、トウモロコシのほうがずっと上ですよ。
林 そうではなくて、マクロで水田をどうするかということで。こっちは余っていて、こっちは足りない。だから、水田でできる飼料という意味でね、今から何を作るかよく考えなくてはいけないね、ということです。この間、面白い話を聞いたんですが、コメを生のままではなくて、炊飯して家畜に与える。そうすると、また違ったコメの効果が出るみたいです。そのような取り組みがあるなか、いろいろなことをやってみて、トウモロコシも一つの可能性を追求してみるというのは面白いと思います。
昆 特にこれまでの日本農業はコメに偏重してきました。コメが一番偉いんですよ。農家の間では、餌を作ることは身分が低いという雰囲気があるんです。
林 今は、コメだけじゃなくて、野菜や花を作ったりしていますが、長い歴史のなかで、日本の風土に最も良く合っているのがコメで、ずっとメインであったのは当然だと思いますしね。
昆 たしかにそうですが、ただ、ある時代からは政策的にコメに誘導してしまった。水田農業ではコメ以外もあり得るのに、その可能性を無視してきました。米価を維持するための減反があって、そのための麦や大豆になっています。僕は「減反なくすべし」という立場でして。EUのような直接支払いもあるわけですから。
北海道の柳原君は、交付金の3万5000円があるならトウモロコシは1kg50円で売れば、それで利益が出るというんですね。今、配合飼料の購入価格は67~70円しているわけですから。彼のところでトウモロコシの反収は700kgから800kg。でも、頑張れば1tから1・5tまでは伸ばせるでしょう。そうなればコストは半分になり、海外と競争力を持ちうる場面も出てくる、と。
これからのドル高、そして国際的に餌用のトウモロコシが逼迫(ひっ ぱく)するだろう事態を踏まえれば、国産があっていいことじゃないかなと思います。
林 私はドル高よりもトウモロコシの需給の逼迫のほうが心配です。為替はどうなるか分かりません。日本と米国の相対的なポジショニングの問題なので。これからずっと米国が強く、日本が相対的に弱いというのは想定しにくく、ドル高・円安という前提で見ていくのは難しいかも知れません。
昆 いずれにしろコメと麦、大豆が逼迫することはそれほど考えにくい。ただ、トウモロコシは間違いなく足りなくなるだろうと思います。
林 それはマクロで世界の人口がどうなるかとか、所得が上がった国や地域が肉食に向かうかも関係してきますよね。為替がニュートラルだとしても、中長期的にはいろいろな取り組みを考えなければならないですよね。
昆 チャレンジする農業経営者がいるものですから、そのチャレンジを応援するように、農水省あるいは国として対応していただければと思います。彼ら農業者がやれば、世の中は良くなると思いますので。
林 水田にコメだけとは言わず、いろいろなことに取り組んでいくのは私も大事だと思いますね。
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林芳正 ハヤシヨシマサ
農林水産大臣
1961年山口県生まれ。1984年東京大学法学部を卒業後、三井物産(株)入社。91年ハーバード大学政治学大学院特別研究生として渡米。92年9月ハーバード大学ケネディ行政大学院に入学。93年2月に父の林義郎大蔵大臣から政務秘書官に任命されて帰国。94年6月ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。95年参議院議員選挙で初当選。99年大蔵政務次官、06年内閣府副大臣、08年防衛大臣、09年内閣府特命担当大臣などを経て12年12月から現職。
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