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【江刺の稲】
改めて「問うべきは我より他に無し」
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第15回 1996年02月01日
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改めて「問うべきは我より他に無し」
前号掲載の土門剛氏のレポート「住専問題は決着後が恐い」は好評だった。何人かの読者からは電話もいただいた。
「農家に向けて発行している農業専門誌紙で住専問題をあの切り口で解説されたのは初めて」だとお褒め下さる方もあり、有り難く感ずるとともに我々が果たすべき役割を改めて感じた次第であった。
その電話の主はさらに。
「日本農業新聞をはじめとする農業専門の新聞や雑誌で住専に関する記事を読んでいると腹が立って、もうこんなもの読むかと思ってしまう。これは「農業」や「農家」の新聞であるというより「農協」や「農業団体」のための新聞なんだね」
と。そして、その電話の主との会話はこんな話題に展開していった。
記事を書いている人は気付いていないのか、それともよっぽど読者を馬鹿だと思っているのではないのだろうか。農協系統組織がいかに大蔵省や銀行に編されたか、そして悪いのは大蔵省と母体行であると、躍起になって報道し、解説すればするほど(あるいはまったく取上げないメディアもあるが)読者はしらけていくことに。
大蔵省や母体行の非は言うまでもない。しかし農業をする者の立場からすれば、それなら系統組織の経営責任はどうなっているのか。ましてや信用事業として農家の金を預かっている責任はどうなっているのだと問いたくなる。
もし農業専門のジャーナリズムだというなら、系統組織の広報のような記事だけでなく、「農業問題」としての本質を語るべきなのではないか。――それが農家であり、農組合員である読者の感想というものだ。
同氏は、青年部で活動してきて以来、共済の推進をはじめ農協活動や地域の農業組織に関与してきただけに、現在の農業専門紙の報道姿勢そのものに農協や農業団体の現在を見るようで、読むたびに空しさとやり切れない怒りを感じると話していた。
読者の感想を伝えるために電話の主の言葉を僣りたが、それは僕の感想でもあり意見でもある。しかし、我々はそれを糾弾し、現在を嘆息すればそれで済むのだろうか。
電話の主の怒りは、単に農業新聞の編集姿勢の問題というレベルのものではない。農家の利害を代弁する存在であったはずの農協組織が、今回、余りにもあからさまにそして大規模に、組合員への背任ともとれる行為を続けてきたことが露見してしまい、しかも農協の広報機関である日本農業新聞が躍起になって系統組織の弁解を代弁していることへの農家としての苛立ちである。
勘違いしていただきたくない。読者の言葉を借りて、日本農業新聞をはじめとする多くの農業専門誌を槍玉にあげ、自らを弁解し自分たちの正当性を語ろうなどというのではない。そんなことより、僕自身を含む農業関係者の存在理由と農業の「現在」を問わずして、我々に安心できる未来などはないと思うのだ。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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