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シリーズ水田農業イノベーション

乾田直播で1俵当たり生産費6,587円 畑用作業機で稲作のコストダウン

農業経済学者や行政関係者は、「我が国の稲作経営は10~15ha規模を境に農地の集積がなされていないためにコストダウンが頭打ちになる」と言う。現在の水田農業を統計的に見れば、その通りだろうし、農地の集積や規模の拡大が必要であることは言うまでもない。しかし、10~15ha規模を境に規模拡大の効果が出ないという議論は、機械化されたとしても、代を掻いて田植えをするという日本の風土の中で形作られてきた伝統的稲作が前提になっている。
岩手県花巻市の盛川周祐氏(62歳)をはじめとする本誌読者の一部は、伝統的水田作業の常識から自由になり、欧米の乾燥地帯で進化してきたプラウや畑作用ハロー、鎮圧作業機、ドリルシーダーあるいはレーザーレベラーなどにより、畑状態のままで播種までの作業をこなし、稲作から代掻き・田植え作業をなくす技術体系を実現している。水稲の春作業のすべてが時速10km以上の高速作業で行なえるために大幅な労働力の軽減が可能になり、適正な作土づくりができることで増収もする。
 それにより盛川氏は乾田直播で全算入生産費が1俵当たり6587円の良質米を生産している。しかも、乾田直播だけでなく無代掻きでの移植や湛水直播などを組み合わせて気象条件の変化にも対応する。この取り組みこそ、水田農業のイノベーションと言うべきである。

 盛川氏は今年になって水稲を22haに拡大しているが、この6587円という生産費は、水稲作付面積が15ha(うち乾田直播9.4ha)だった平成21年産のものである。

 図1のデータは(独)農研機構東北農業研究センターの大谷隆二氏らによる「プラウ耕・グレーンドリル播種体系の乾田直播栽培技術マニュアルVer.2」で紹介している。比較対照した平成22年産米の東北地方平均の1俵当たりの全算入生産費は1万1846円で、盛川氏の生産費はその55.6%に過ぎない。同様に平成22年産米の10~15ha規模の全国平均と比較すると、全国平均は1俵当たり1万2496円、15ha以上でも1万1531円である。盛川氏のコストは10~15ha層の全国平均の52.7%、15ha以上層の57.1%と、大規模農家と言われる経営体の約半分のコストでコメづくりをしているのである。

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