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【耕すということ】
イタリア・ドイツの農業機械展を見て
- 農学博士 村井信仁
- 第15回 1996年02月01日
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昨年暮、イタリアEIMA展、ドイツDLG展を視察する機会があった。やはり足を運ばないことには、ヨーロッパの動きを正確に把握することはできないものである。農業機械展は想像していたより、大型化へ変貌、農畜産物のコスト・ダウンに厳しい取り組みをみせていた。
日本全体とでは経営面積の違いもあり、比較することに無理があるとしても、陸続きの国と、島国との違いであろうか、現地の農家と会ってみても、人々の意識構造にかなりの違いがあることを認めざるを得なかった。
日本では、農業は生物生産業であり、工業とは違うという意識を持っている。しかも諸外国と与えられている条件が異なれば“国内農業保護は当然”と多分に居直っているところがみられる。しかしドイツなどでは、農業と工業の違いはあるとしても「天は自ら助くるものを助く」と考えられているのである。自助努力を先行すべきだというのだ。他国が陸続きで隣り合っていると、刺激が直接的であることから、こうした意識が強く出るものと思われた。
そしてその方が、ただ単に官主導に不満を持つより潔いことである。補助金があろうとなかろうと、農業として生き抜くために必要であると判断すれば、農家は自ら共同化をするし、ファームコントラクタのシステム化も行なう。これが農家の実力というものであろう。
こういった意識は、農家ばかりでなく、農機具メーカーも同じことである。あるメーカーの経営者は、業界で3位以内の売上をキープできない機械は生産を中止すると言い切った。3位内でないということは、技術的にも遅れをとっているのであろうし、無理をして生産したところで、量産できないから競争についていけないと言うのである。
その代わり、3位以内にあるものに力を注ぎ、技術開発をし、コストダウンに努力して3位内をキープできるようにするとのこと、この考えが凄じい。ここには「昔から生産している機械だから」などという感傷はない。高度化された機械が安く生産できる秘密がここにあるとうかがえた。
ともあれ、久しぶりの視察会、驚かされることの多い旅行であったが、テーマである「農業は耕すことに始まる」の肝心の耕起機械はどのようなものであったか、その印象を述べたい。
見本市で機械化の新しい動きを知るには、どの小間に人が多く集まっているか注視すればよい。人の集まるところには、何か訳があるのである。そこに行けば、効率よく動きを勉強することができる。
耕起用具はどちらかといえば、単純である。だからそこに人が集まるとは思えなかったが、事実は小説よりも奇なりである。イタリアもドイツも、耕起用具の小間が多いことに加え、そこは必ず人だかりがしているのである。農家の関心がいかに耕すことに集まっているかがうかがわれる。
そして、プラウは変り映えしないようでいて、実はさまざまな工夫が施されている。あるものは反転・鋤込み性を強め、あるものはポイントを強化し、耐久性に配慮しているなどである。トラクタの大型化に伴い、多連化も凄まじい。油圧機器を使い分けて取り扱いを容易にする機構開発にも見るべきものがあった。
ボトムプラウは、全般的にみて深耕型に変ってきている。より土地の潜在能力を活用しようとする意欲の表れであろう。60cmは耕起できるワンボトム、あるいは2段耕型のプラウも何種類か見ることができた。
日本全体とでは経営面積の違いもあり、比較することに無理があるとしても、陸続きの国と、島国との違いであろうか、現地の農家と会ってみても、人々の意識構造にかなりの違いがあることを認めざるを得なかった。
日本では、農業は生物生産業であり、工業とは違うという意識を持っている。しかも諸外国と与えられている条件が異なれば“国内農業保護は当然”と多分に居直っているところがみられる。しかしドイツなどでは、農業と工業の違いはあるとしても「天は自ら助くるものを助く」と考えられているのである。自助努力を先行すべきだというのだ。他国が陸続きで隣り合っていると、刺激が直接的であることから、こうした意識が強く出るものと思われた。
そしてその方が、ただ単に官主導に不満を持つより潔いことである。補助金があろうとなかろうと、農業として生き抜くために必要であると判断すれば、農家は自ら共同化をするし、ファームコントラクタのシステム化も行なう。これが農家の実力というものであろう。
こういった意識は、農家ばかりでなく、農機具メーカーも同じことである。あるメーカーの経営者は、業界で3位以内の売上をキープできない機械は生産を中止すると言い切った。3位内でないということは、技術的にも遅れをとっているのであろうし、無理をして生産したところで、量産できないから競争についていけないと言うのである。
その代わり、3位以内にあるものに力を注ぎ、技術開発をし、コストダウンに努力して3位内をキープできるようにするとのこと、この考えが凄じい。ここには「昔から生産している機械だから」などという感傷はない。高度化された機械が安く生産できる秘密がここにあるとうかがえた。
ともあれ、久しぶりの視察会、驚かされることの多い旅行であったが、テーマである「農業は耕すことに始まる」の肝心の耕起機械はどのようなものであったか、その印象を述べたい。
耕起用機械への関心の高さ
見本市で機械化の新しい動きを知るには、どの小間に人が多く集まっているか注視すればよい。人の集まるところには、何か訳があるのである。そこに行けば、効率よく動きを勉強することができる。
耕起用具はどちらかといえば、単純である。だからそこに人が集まるとは思えなかったが、事実は小説よりも奇なりである。イタリアもドイツも、耕起用具の小間が多いことに加え、そこは必ず人だかりがしているのである。農家の関心がいかに耕すことに集まっているかがうかがわれる。
そして、プラウは変り映えしないようでいて、実はさまざまな工夫が施されている。あるものは反転・鋤込み性を強め、あるものはポイントを強化し、耐久性に配慮しているなどである。トラクタの大型化に伴い、多連化も凄まじい。油圧機器を使い分けて取り扱いを容易にする機構開発にも見るべきものがあった。
ボトムプラウは、全般的にみて深耕型に変ってきている。より土地の潜在能力を活用しようとする意欲の表れであろう。60cmは耕起できるワンボトム、あるいは2段耕型のプラウも何種類か見ることができた。
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村井信仁
農学博士
1932年福島県生まれ。55年帯広畜産大学卒。山田トンボ農機(株)、北農機(株)を経て、67年道立中央農業試験場農業機械科長、71年道立十勝農業試験場農業機械科長、85年道立中央農業試験場農業機械部長。89年(社)北海道農業機械工業会専務理事、2000年退任。現在、村井農場経営。著書に『耕うん機械と土作りの科学』など。
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