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岡本信一の科学する農業

土壌の数値管理の可能性

定量的な数値管理をどうやって栽培に利用できるのかを考えてみたい。数値管理と聞いて、まず思い浮かぶのは土づくりの指標ではないだろうか。では、土づくりの目標はどこにあるのか。そこから始めよう。


つくりたい農産物が曖昧だと土壌の数値管理はできない


最近、土づくりは総じて「良い農産物」をつくるためと考えている方も多いようだが、その目標は非常に曖昧である。一般的な土づくりは化学分析結果をもとに養分の過不足をなくすという考え方をする。土壌の養分バランスは非常に幅広い範囲で作物の成長に影響を与え、極端な過不足があると収量が激減する。そこで、養分バランスを整えるための指標をつくり、肥料や土壌改良材を投入して改善しようとする。しかし、これまでの連載で触れてきたように土壌養分の過不足と収量や収穫物の品質との関係はあまりはっきりしていない。
代表的な化学性の分析項目にCEC(塩基置換容量)や腐植がある。CECからは土壌が陽イオン(アンモニウムイオンなどのプラスの電荷を持った養分)を保持できる量が分かる。土質の違いによって値は大きく異なるが、土壌中の腐植の量にも左右されるため、CECの値を上げる方法には腐植の量を増やすという処方も行なわれる。腐植は土壌中の有機物が変化したものだから、有機物の投入量によってCECと腐植のバランスを整える。ところが、有機物を投入してCECや腐植の値の改善指標をクリアしても、土壌が良くなっただけで、具体的に農産物の収量や品質が向上するといった成果はあまり期待できない。多くの場合、腐植やCECの値は土質に関係していることが多く、値が同じでも腐植の量と収量や品質の間に定量的な関係が導き出せないからだ。
前号までに取り上げてきた土壌の物理性や株間などの項目が収量や品質(特に大きさ)に直接的な影響を与えるのに比べると、土壌の化学分析に基づく土づくりの指標もまた曖昧であると言えるだろう。目指す「良い農産物」が明確でなければ、土壌の極端なアンバランスを是正することしか達成し得ない。極端な低収量、低品質を避けられる以上の成果が上がったとしても、それはその土づくりの成果以外の要因も関与していると考えるのが妥当である。

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