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新・農業経営者ルポ

ファーミング・エンターテイメイト

 立命館大学経済学部で農業経済学を学んだ動機は、真面目に一生懸命に働く父親が、なぜ豊かになれないのかを知るためだ。やがてそれは農家自らが直接販売しないからだと理解できた。農業者自身のマーケティングが行なわれていないからだ。自分で農業をするのなら、生産からではなく顧客あるいは社会に向けてのマーケティングから考えることにしようと決めていた。

 小川は職業を選ぶなら「教育」か「社会福祉」あるいは「農業」にしようと考えていた。それが現代であればこそ求められる仕事だと思ったからだ。そして、農業も教育も福祉も環境や社会の中で人を育て、癒し、励ますという共通のテーマを追求する。同時に、これまでの延長線上を辿るだけでは済まされず、そのあり方や人々の意識の変革が求められているという面でも共通していた。

 大学卒業後は、時間講師や産休代用教員としての教職も務めた。小川が目指す農業の実践のためにも教育の現場での体験を積みたいと考えたからだ。その後、福祉団体に4年間勤め、仕事を通して現代の社会福祉のあり方を見つめた。「農マル園芸」の名称は福祉事業で学んだ「ノーマライゼーション」という概念に由来している。

 かつての社会福祉では、保護し介護する結果として障害者を健常者や社会から隔離してしまっていた。それは本来の人間社会の姿ではない。障害者と健常者は特別の区別なく社会の中で一緒に生活を営むことが望ましいというのが現在の福祉の考え方である。そうした福祉の形を取り戻していこうという理念や活動を「ノーマライゼーション」という。さらに、障害者が積極的に社会参加できる環境を整備すべきだとされる。

 農マル園芸の「農マル」とは、これまでの農業とは一線を画し、「農業・農村・農民のノーマライゼーションを目指す」という同社の理念を示す小川の造語なのだ。

 農業は日本の社会の中で、社会一般とは隔離された特殊な位置に置かれたままにある。経済的にも文化的にも。農家や農村・農業関係者の意識も隔離された世界で生きているかのようだ。小川は、自らの農業ビジネスを通して農業という職業・産業のノーマライゼーション、農村・農民の生活や意識のノーマライゼーションを目指そうと考えた。農業は他のあらゆる仕事と同様の当たり前のビジネスなのだということを示したい。単に利を求めるだけではなく、社会や顧客に必要とされ喜ばれればこそ利益が増大する。しかもそれを私企業としてこそ成立させたい。それが、小川の花をメインにした園芸直売所であり、イチゴの摘み取り園であり、野菜直売所であり、アイスクリームやスイーツのショップなのである。

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