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岡本信一の科学する農業

分かりやすさの落とし穴



定量的な関係を言葉で説明するのは難しい

例を挙げると、以前連載の中で触れた土壌の物理性と株間の関係がある。ここには定量的(一つの数式で説明できる)な関係が見出されているので、土壌の物理性を測定すれば、大きさのそろったジャガイモを栽培するための最適な株間を知ることができるわけだ。その通りに栽培すれば、理論的には大きさのそろったジャガイモができるはずである。
多くの人はこのあたりでつまずいてしまう。この定量的な関係、すなわち一つの式で原因と結果の因果関係を説明できるということの意味が分からないために、数値管理が難しいと考えるわけだ。そこで、「もっと分かりやすく説明してください」というリクエストが届く。
しかし、これは相当難しい。従来から説明してきたように、「軟らかい土壌ではジャガイモが大きくなりやすく、硬い土壌では小さくなりやすい」というような定性的な説明であれば、理解しやすい。
しかし、さらに具体的に説明しようとすると、数式の説明が必要になる。この数式を説明するというのがとても難しいのだ。
想像してみていただきたい。「二次方程式を言葉で説明してください」と言われたらどのように説明できるだろうか。おそらく説明するのは相当難しいはずである。単なる掛け算にしても、言葉のみで説明しようとすると非常に難しいことがお分かりいただけるだろう。
そこで、先に書いたように、「軟らかい土壌では大きくなりやすく、硬い土壌では小さくなりやすい」というように説明することになる。分かりやすい表現ではあるが、実際の栽培技術としては、これではほとんど役に立たない。土壌の硬い、軟らかいという言葉は人の感覚によって違うためである。基準となる数値がなければ、「軟らかい土壌では大きくなりやすく、硬い土壌では小さくなりやすい」というような事象を栽培の改善に役立てることはできないのである。
さらにもう一つ例を挙げてみよう。株間のバラツキがあると歩留りが悪くなるという話を以前の連載で紹介した。栽培を改善するために、「株間のバラツキを抑えるように播種(定植)してください」という指導をしても、どの程度のバラツキなのかという感じ方が違ってくる。人によってバラツキの捉え方が違う以上、人によって目指すところが違ってしまうことになる。株間のバラツキを抑えたほうが良いというのは、誰にでも理解できることであるが、数値的な指標がなければ、「バラツキを抑える」という指導はあまり大きな意味を持たないのだ。

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