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【編集長インタビュー】
“農山村”という未来型経営資源に注目しよう
- 株式会社日本総合研究所 調査部 主席研究員 藻谷浩介
- 2013年09月24日
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望ましい変化
昆吉則(本誌編集長) 最近出された『里山資本主義』※、大変面白く拝読しました。自民党農林部や農業関係者のほとんどを含めた左翼以外の人たちで、藻谷さんが農村や里山の可能性を経済的に評価していることに大変共感したんです。
藻谷浩介((株)日本総合研究所 調査部主席研究員) ありがとうございます。
昆 本書ではマネー資本主義の対局的な概念として里山資本主義を提案されていますね。
藻谷 ええ。私たちはお金だけに頼っていると、一生大きな不安から逃れることはできないんですね。お金が通じなくなったら、あるいは稼げなくなったらどうしようとなるわけですから。万一お金が稼げなくなっても、あるいは社会が天災その他で瞬間的にお金が機能しなくなっても、食料と水と燃料があれば何とかなるわけです。里山で暮らしている人たちを見てください。彼らには安心感があります。
昆 都会の人にはそれがない。
藻谷 震災後の日本人の様子をずっと見ていると、みんな語らないけれども、心の底では不安を感じていますよ。理屈じゃなく、本能的にまずいと感じているんです。人口の6割は大都市に住んでいますが、日本人の行動はどんどん刹那的になっている。アベノミクスの金融緩和をたとえて、ある人が迎い酒というのはまさにその通り。すでに二日酔いのところに、公共投資という迎い酒をさらに飲ませるわけですから。お金がないのに、大変危ないことをしている。それでも日本人の根底に不安があってやけくそになっているから、あおりやすいわけです。
昆 『里山資本主義』を読んで、特にいいなと思ったのは「根本原因分析」です。原因を繰り返したどっていくというこの手法で農業問題にある根本の原因を探ってみると、僕は農地改革にあるという考えなんです。いまの農業は敗北主義が利権化した姿なんですよ。農家も含めて麻薬中毒になっている。彼らが誇りを持つことが肝心なんです。
藻谷 自立ですね。
昆 ええ。そう考えているものですから、当たり前の農業・農村の可能性を認めようという藻谷さんの言い方に共感したところです。
藻谷 商店街の置かれている状況もまったく同じですよね。家業っていうのは、家族が解体しているときにやってもうまくいかない。解体したら土地を投機しようとして、商店街は失敗した。でも農業は土地を投機する人がたくさん出ていますね。農業の場合は蓄積のある農地を台無しにして、結局は輸入農産物に置き換わっている。そこに変にコミュニティがくっついているので、どうしようもない。どうしようもないというのは、私の故郷は山口県周南市金峰でして、最近、八つ墓村事件が起きてしまった。やっぱり田舎の状況を知っている人は、やる人間は気が狂っているが、やられる側も狂っているというのは分かるんですよ。殺されるまでいじめ抜くんです。その時の仲間意識で動いて、目的がない人たちなんです。
昆 利権を共有しているだけですね。
藻谷 そうです。ただ幸いなことに人口が減っていくので利権は細っていく。
昆 それは望ましい変化ですよ。
藻谷 ええ、希望的な変化です。その中でも個人として自立できるところしか生き残らないんですよ。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
株式会社日本総合研究所
調査部 主席研究員
山口県生まれの56歳。㈱日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行なっている。著書に『デフレの正体』『里山資本主義 』(共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。共著に『進化する里山資本主義 』(Japan Times)、『東京脱出論 』(ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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