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昆 分かります。
藻谷 都会で拡大欲求をやれば、マネー資本主義の餌食になって、デジタルな金は積み上げたけれど、結局は不況でパーになる。しかし田舎で拡大欲求を追求すれば、爺ちゃんや婆ちゃんが元気になる。資源は尽きることがないから、事業の拡大を阻害するものがない。中島さんなんか、1万kWの木質バイオマス発電を造ろうと言うんです。
昆 それは大きい。
藻谷 発電規模でいえば大きなダム以上ですよ。それも決して荒唐無稽といえず、計算すればできそうなんです。彼も山師ではなく1000人ほどの雇用を預かる経営者ですから。そういう人間が合理的に考えて計算して、そこにお金を集めて、一歩出ようとしているわけです。
昆 行政主導で奪われてしまったが、それでも里山には経営者がいるんですよね。いくら売り上げるかではなくて、いくら利益を出せるか、いくら回せるかという感覚を持った経営者が。
藻谷 そう、いくら回せるかですよね。
昆 農業の本質はそこにあります。
藻谷 確かに農業って回っているんですよね。回っていないと、土から収奪されるだけで続かない。
昆 だから有機農業という言葉はおかしいんです。だって有機以外の農業ってあるわけないんですから。
藻谷 ビタミン剤だけ投与しても、自然治癒力がないと絶対死にますからね。
昆 農業は風土の中で太陽と水、微生物をいかに最大限活かしていくかというものですから。
経営者の資質
藻谷 私は思うんですが、都会でフリーターをやるなら田舎で2、3年過ごせばいいんじゃないか、と。失敗したら帰ってくればいいじゃないか、ってね。
昆 この10年や15年で農業法人に勤めたいとか、田舎暮らししたいという人が山ほど出てきました。ところが実際問題として、ほとんどは使い物にならない。農業というのは現代的なビジネスですから。
藻谷 極めて複雑な合理ですからね。ただ成功する人はいるし、大成功までいかなくても何とか食えている人はいますよね。でも東京にいるとなぜそうならないかというと、彼らは中間管理職をやっているんです。地方にいる経営者的な人材は、東京では中間管理職になっている。部下から慕われる、責任を取れる。そして小さい範囲をマネジメントしているけど、どんどんコンプラの関係で管理のための管理が強まって、経営の能力を発揮できない。
昆 人間としての能力の発揮ですよね。
藻谷 そうです。いまの若い人はノルマをこなすのには長けている。受験戦争に勝ち残っている人たちはストレス耐性が高いですね。ただノルマに対するストレス耐性が高い場合、感受性が乏しい人が多い。だから出てくる結果がクリエイティブにならない。私は、むしろドロップアウトした中にこそ優秀な人間が多いって思っているんです。農業を見ていると、クリエイティブでないとできませんよね。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
株式会社日本総合研究所
調査部 主席研究員
山口県生まれの56歳。㈱日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行なっている。著書に『デフレの正体』『里山資本主義 』(共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。共著に『進化する里山資本主義 』(Japan Times)、『東京脱出論 』(ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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