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“被曝農業時代”を生きぬく

自らの手で福島産の安全を伝える果樹農家たち


高橋も同じ考えだった。
「誰の責任にあるのでもなく、体制的な問題ですよね。買う側からすれば、500ベクレルという国の暫定規制値が安全なのか、検査するサンプル数が十分なのかという疑問があった。あるいは他県産と比べたときに、なぜ福島産を選ぶのかということもある。それでも買う人たちに福島産を選んでもらうには、自分たちが安全性を追求するしかないという結論に達したんです。だから、以前からJAで開いていた経営塾で、除染や風評被害の専門家を招いて勉強会を始めたんです。それが土壌クラブの前身ですね」
経営塾の講師たちの話は総合すれば、「オブラートに包んでいたら復興しない」「正確な放射線量を出さないといけない」ということ。事実をさらしたうえで、客にその果物を買うかどうか判断してもらう。そのため、まずは自分の畑の放射線量を測り、そこで果物を作れるかどうか確かめよう。そうした思いを共有できる12人が、震災翌年の2月、「ふくしま土壌クラブ」を結成する。まずは互いに金を出し合って、1台25万円の線量計8台を購入する。高価ではあるが、高橋はもし1台50万円でも買ったという。
「それは売り上げの落ち込みがすごかったですから。まず行動しないことには何も変わらない、と。会員の園地を3m掛ける5mのメッシュにして、1万4000カ所以上を測定しました。その頃、チェルノブイリの原発事故に詳しい専門家の講演に行ったんです。彼は1四方のメッシュで測定するよう、集まった関係者を前に熱心に説いていました。それで講演が終わってから、自分たちは3m掛ける5mでやっていると伝えたら、びっくりされた」
一方、野崎は測定したことは大切だったという。
「測っていけば、この畑は問題ないということが分かってくる。それは果物を作るうえで自信になりましたね。やっぱり自分たちに自信なければ、人にも自信を持って売れないわけです。1年目はそうした自信がなかったから、お客さんが買ってくれなかったんですね」
ふくしま土壌クラブは放射線量を測定する以外に、表土の剥離や除染資材の有効性をみる実験もしてきた。やがて県の研究機関が樹体の高圧洗浄や粗皮削りといった除染技術の効果を確かめ、普及していく。
「そうした技術に絶大なる効果があったんで、みんなが一斉に取り組んでいったんです。それは農家の気持ちを一つにして、県内全域で果樹の除染を進めていくうえで絶大な効果がありました。もう福島の農産物は安全と言っていいと思います。では、除染の方法が確立された今、自分たちは次にどんな活動をすればいいのだろうか。次にやるべきことを考えた時に浮かんだのは、風評被害を払しょくすることでした」

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