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女化通信

今年の竹の子は不作だったけれど

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第4回 1996年04月01日

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昭和5年生まれの高松求氏は、茨城県牛久市女化町という畑地帯に住む複合経営農家である
ご自分ではすでに“引退した”経営者だという同氏だがその経営体験から生まれるさまざまなアイデアや経営への考え方は聞く者の規模や作目を問わず、示唆に富む
「女化通信」のタイトルで同氏のその時々の仕事と本誌とも共同で進める経営実験の模様を紹介していきたい
 高松さんが竹山にドリップ濯漑をしてマルチを掛けたことを前号で報告した。しかし、2月に入ってからの濯水開始では、予想された昨年夏の干ばつ被害は回復できなかった。潅漑とマルチをした場所が早く出たのは間違いないが、残念ながら今年の竹の子のできは芳しくない。

 平年であれば彼岸の頃から出始めるのに、今年は3月末になって、濯水とマルチをかけた所だけでわずかに出ているだけ。4月に入って量は増えるだろうが、出るのが遅い年は量も少ないそうだ。竹の子の芽は夏にできるため、その作柄は前年の夏の気象に左右されるのだ。高松さんがドリップ濯漑の設備をしたのは今年になってからのことだった。

 昨年の夏の土壌水分状態が女化の竹の子の出方に影響していることは、近くの水田と隣り合った竹林で比較的発生が多いことを見てもわかる。平年であれば竹の子の品質にとってマイナスの条件となる水田からの水分が、干ばつの害を軽減させたのだろう。

 高松さんの竹山は、もともと水位が高かった。しかし、その排水性をよくするために以前に水路を掘り下げていたのだが、結果をいえば昨年の夏にはそれが災いしたわけだ。

 「天候に左右される農作物である限り思いどおりにいかないことがあってもしようがない。夏の水不足で、そもそも出てくるべき竹の子の芽が付いていない。生まれていない子供を育てようとしていたのかもしれないね。いくら便利な手段があっても、自然のサイクルに合わせた時期にそれが使えなければどうにもならない。地の下の竹の芽は我々には見えないけど、お天道様の采配はキチンと結果を出すものだ。それが農業なんだ。あの干ばつの時期にこれを思いついていたらよかったね」

 と高松さんは笑っている。その笑いの理由は、単にしようがないというだけでなく、新たな計画が見えたという笑いでもある。

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