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高齢農家の生き甲斐が生む価値
難波組合長のスタートはとてもラッキーだった。就任してわずか10ヶ月後の今年2月、全中と農水省が共催した「第1回環境保全型農業推進コンクール」で、見事大賞に選ばれたのだ。受章理由は、畜産農家と連携しての堆肥による上作りの推進や、性フェロモン剤を利用した害虫対策など、“環境に優しい農業”の実践が高く評価されたことによる。
難波組合長は、先輩の藤井組合長と組合員の業績に対しての栄誉だと、とても謙虚に語ってくれた。
有機や無農薬栽培に取り組む農協なら、純農村地帯の営農中心の農協だと思われがちだが、岡山市高松農協は都市近郊の金融事業中心型の農協である。岡山市内へは13km、車で20分ほどの距離で、岡山市への完全な通勤圏でもある。岡山から総社への道路沿いや駅近くは市街化の波が押し寄せてきている。
有機や無農薬栽培に取り組む農家は、3グループの90戸である。30haの田圃畑で作る作物は、ホウレンソウ、キュウリ、玉ネギなどの野菜に米など。
有機栽培に欠かせない堆肥は、20kmほど離れた賀陽町の畜産農家から仕入れている。いまは岡山市高松農協管内には、畜産農家がいないのだ。
農協が取り組む有機や無農薬栽培の成功事例として、岡山市高松農協には多くの視察者がやってくる。農協関係者以外にも多い。ある時、日銀の岡山支店長もやってきて、「それで、有機や無農薬栽培は儲かるんですか」と質問した。難波組合長は、さすが日銀マンは経済採算性に関心があるのだなと苦笑しつつ、「いや、儲けのことを考えていたらこんなことはやっていられません」と答えたら、支店長氏はポカンとしていたという。
有機や無農薬栽培は、手間がかかる割には儲からない。栽培農家が頭を痛める点がここにあるのだ。それでも取り組むのは農家の心意気によるのだが、これには少々カラクリもある。難波組合長は、こう説明してくれた。
「高齢農家に取り組んでもらっていますから、もともと儲けることが目的ではありませんので、何とかやっていけるのです。営農中心の農協でしたらちょっと無理かも知れませんね」
とくに手の込んだ作業となる“多品種少量生産”は若者には不向きである。この成功事例は、高齢者の生き甲斐に支えられていることは無視できない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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