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県外にも広がる安全のイメージ
岡山市高松農協が、有機・無農薬栽培のパイオニアになるには、行政や地元経済界の強力な支援も重要な存在だった。経済連や中央会が横を向いていた時、行政では岡山県の長野士郎知事が応援してくれた。
県は国より早く有機無農薬産地事業をスタートさせている。有機・無農薬栽培に関連した組織育成費や濯漑用井戸、防虫ネット、雨よけハウスなどに県費で半額補助を出してくれ、5kg腸詰めの小売用のパックのデザインに助成金もつけてくれた。有機農産物に対するガイドラインも国に先がけて88年に導入している。
勝手な推測だが、こうした知事の応援は、水戸黄門の“印篭”ではないが、経済連の横槍をかわすのにも絶大な効果があったのではないだろうか。
経済界では、地元の天満屋百貨店が、岡山市高松農協のために、わざわざ有機・無農薬栽培の農産物の専用売場を設けてくれた。いまから20年近くも前のことである。地元スーパーの商品戦略とも合致した。食べ物の安全性を求める消費者ニーズにマッチし、商品の差別化にも大いに役立ったのだ。
有機や無農薬の取り組みは、農協界よりも外の世界で先に評価され、それが何年かして農協界にフィードバックされてくる図式のようである。農政の経験も豊かな難波組合長も。
「このような取り組みは、西南暖地の農業県だからできることです。貧しければ、損を覚悟で有機や無農薬栽培は不可能ですからね」
と総括する。
岡山市高松農協は、金融事業でも恵まれている。とかく問題となっている不良債権がぽとんどないのだ。今回の住専処理のゴタゴタでも貯金の流出はなかった。むしろ逆に増えているのだ。組合員から「よい農協」のお墨付をもらったようなものだ。
有機・無農薬栽培の作物は、いまでは天満屋百貨店だけでなく、大阪の阪急百貨店宝塚店でも扱われるようになった。岡山市高松農協のイメージが県外にも浸透しつつあるのだ。ただ悩みと言えば、注文に応じきれないことである。こればかりは急激に増やすことはできそうにない。それと堆肥原料となる家畜糞尿を確保することである。
農協トップは気づいていないかも知れないが、採算を度外視したかに見える岡山重局松農協の有機・無農薬栽培への取り組みは、たしかにメリットのあることなのである。県内外の消費者に“岡山市高松農協=安全な農産物を作る「よい農協」”のイメージが定着するなど、有形無形のメリットを与えていることだけは間違いない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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