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新・農業経営者ルポ

1株100万円!過疎地を変える新たな農村ビジネス

今回の主人公である清水三雄(72)は、京都府福知山市三和町の(株)京都天田郡みわ・ダッシュ村で村長を務めている。街の喧騒を離れて田舎に楽園を求める人々を迎え入れる都会脱出村という言葉をもじったものだ。縁もゆかりもなかった山間地で開墾を始めて8年。まるで「ジャングル」だった4.5haは今、つかの間の憩いや新たな暮らし方を求めて大勢がやってくる天地に生まれ変わった。 文・撮影/窪田新之助


楽園の創造へ
ジャングルを切り開く


一面紅葉した丹波の山々をかき分けるようにして、どこまでも高速道路が延びている。やがてたどり着いた福知山市三和町は、昼間とはいえ人影もまばらな山あいにあった。道の両脇の木々は間伐されないままに鬱蒼としている。
そうした、いかにも過疎地という風景を何とはなく横目に見ながら車を走らせていると、突如として青空に向かって屹立した木製の巨大ブランコが出現した。筆者は事前にその存在を知っていたものの、初めて見ると、急に現れたその威容に目を覚まされる思いだった。22・9mという高さは、何しろギネスブックで世界一に認定されているのだ。
シンボリックなブランコに導かれるように村に入っていくと、赤いつなぎに白いヘルメットを被った、背筋がきれいに伸びた清水が笑顔で出迎えてくれた。挨拶もそこそこに、幌を取り払った白いジープで村内を案内してもらうことになった。
ジープで走らなければならないほどだから、ダッシュ村には急な坂道がある。時にヒヤヒヤしながらぐるりと一周してみると、あるのは田んぼや畑だけではない。野良仕事に飽きてしまった子どもたちが楽しめる場所として、ブランコやバスケットコートなどを備えた遊技場、地元の稀少なメダカを放流した池、ペットの豚を放し飼いにした牧場などを設けている。昨年春には飼い犬を野原で遊ばせる「ドッグ・ラン」を開園。また、夏には喫茶店もこしらえて店内を自分たちで飾った。
今でこそ年間5000を超える人々が訪れるが、10年前までは「忘れ去られた場所」だった。JAの役員らが所有していたというかつての畑には、人の背丈を越えるような草木が好き勝手に生い茂っていた。それはまるで「ジャングル」のようで、道路から10mも足を踏み入れれば、人の姿はまったく見えなくなってしまうほどだったという。
荒野を切り開くため、これまでにつぶしたユンボは3台。それでもまだ終わったわけではない。かつての棚田は杉林になったままである。水が引かないぬかるみに入り込み、チェーンソーで切り出していく。ここにログハウスを建てる。「楽園」をつくるための格闘はまだ続いているのだ。

家族のために有機農産物を作る

清水はこれまで、自分で起こしたトラック駐車場の開発会社を国内最大規模にするなど、実業界で成功を収めてきた。それなのに、あえて大変な思いをしてまでも農業経営に乗り出したのは、3人の娘に「安全で安心できる」農産物を食べてもらいたかったからだ。

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