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小川幸夫の虫の世界から見る農業

天敵昆虫を生かす術を考える

「ムシキング」の原点はテントウムシにあり 筆者は、農家仲間から「ムシキング」などと呼ばれている。しかし、子どものころはカブトムシなど目につくかっこいい虫が好きなだけで、ごく普通の男の子と一緒だった。大人になっても特別な昆虫オタクになったわけではない。就農するまでは農業における小さな益虫や害虫などにまったく興味がなかったのが実情である。
そんな筆者が後にムシキングとなるきっかけになったのは就農を間近に控えた時期に捕まえたテントウムシの幼虫たちをおいて他にない。近所のトマト農家のハウスにアブラムシが大量に発生しているというので、得意げになってテントウムシの幼虫を100匹ほど捕まえて持っていった。子どものころからいろんな虫を捕まえては飼っていたため、テントウムシがアブラムシを食べることは知っていた。だが、数日後に確認しにいくと、アブラムシが大量にいるにもかかわらず、テントウムシの幼虫たちはアブラムシを食べるどころか、なんとお互いを共食いしていたのである。
テントウムシはアブラムシを食べるのではなかったのか。調べると、アブラムシもテントウムシも個々に数百種類が存在することに気づく。そのとき、ようやくわかった。それぞれがすみ分けできているということを。
昆虫たちは実はかなりの偏食なのである。テントウムシならアブラムシをなんでも食べるわけではない。一つの種類のテントウムシは好みの植物を食べる好みのアブラムシしか食べないことをそのときに気づかされ、そして驚き、また感動した。それから虫たちの複雑な食物連鎖の仕組みにとても興味を持ち、なんとか自身の農業に利用できないものかと考えるようになった。

害虫と一緒に殺されている
益虫に目を向ける

本稿では農家の立場で害虫と益虫の話題に絞る。筆者は研究者でもないため、普段から接している畑の害虫と益虫のみしか触れられない。そのうち、畑では特に見向きもされず、害虫とともに殺されてしまう益虫の重要性を中心に伝えられればと思っている。
そもそも益虫とは人間にとって都合のいい昆虫のことを指す。これは、人間が益虫だと解釈すればそうなってしまう勝手な区分けだが、わかりやすいのが主に農業で生物農薬として売買されているような害虫を食べる肉食昆虫や肉食のダニである。我々農家は、これら益虫の生態を理解して上手に使うことで、化学農薬のコスト削減やその散布の手間暇、被ばくリスクを軽減できる可能性を持っている。
さて、個別に昆虫を取り上げていきたいところだが、生物農薬である天敵昆虫を用いることが害虫防除のうえでどんな位置にあって、またどんな方法があるのかをまず先に見たい。IPM(Integrated Pest Management)という用語から入る。「総合的な病害虫防除」と訳されるIPMは、病害虫防除のためのバランスの良い考え方で、防除の4つの方法の分類とその組み合わせからなる。

(1)
耕種的防除(適地適作、適期適作、適正施肥、輪作、フリー苗、接ぎ木、品種改良など)
(2)
生物的防除(天敵昆虫、フェロモン剤、コンパニオンプラント、完熟堆肥、ぼかし、微生物資材など)
(3)
物理的防除(防虫ネット、シルバーマルチ、捕虫紙、光による誘殺など)
(4)
化学的防除(化学農薬など)

病害虫防除の方法はこのようにたくさんあるものの、どうしても(4)の化学農薬に偏りがちなのが現実である。天敵昆虫に関しては、(2)の生物的防除のなかの一つになるわけだが、考えてみればIPMのなかの生物的防除、さらにそのなかの天敵資材ということで、本当に数多くある方法の一つに過ぎない。天敵昆虫とはそうした立ち位置にある。

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