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岡本信一の科学する農業

失敗の原因を科学的に追究していますか?

数字で明確にできなくても科学的なアプローチはできる

本連載の初回に「農業を科学的に行なうためには、客観的な数字で把握する必要がある」と書いた。しかし、数字を使って説明すれば科学的であるというものではないし、数字を使って説明していたとしても科学的でないということは往々にしてあり得る。また、さまざまなセンサを使って測定を行なうことが科学的であるというのも誤解の一つである。
改めて書くのもなんだが、「科学的」とはいったいどういうことなのだろうか。原点回帰してみよう。
先日、科学的な考え方、手法について非常に簡単かつ明確な定義を聞いた。科学的とは「原因と結果がきちんと因果関係で結びついていること」だという。言い換えれば、科学的な手法とはきちんと原因と結果の因果関係を捉えようとするアプローチのことだといっていいだろう。さまざまな現象は必ずしも数字で明確にできることだけではない。もし数値化できていなくても、科学的な考え方は可能である。
わかりやすく手近な資材を例に挙げよう。「石灰を施用すれば土壌のpHを矯正できる」というのは科学的な説明だ。これを「石灰を使用すれば収量が上がる」と説明すると非科学的になってしまう。石灰は酸性土壌に施すことで、土壌をその作物にとって最適なpHに矯正する効果のある資材である。バランスの良い土壌にはなっても、作物の収量が増えるかどうかははっきりしない。たとえ収量が増えたとしても、石灰資材の施用はその理由にはならないのである。どの資材であれ、栽培方法であれ、「収量アップに効果あり」と書かれていても、科学的に因果関係があるかを考えたうえで取り入れることがポイントになる。

同じ失敗をしないためには
原因を取り除くだけでいい

なぜ、農業技術とあまり関係ないことを書くのかというと、原因と結果を明確にせずに農業技術を語る方が多いためである。先に述べたように、何らかの資材や機械を使用すればそれだけで良くなるかのように勘違いしていないだろうか。
特に、栽培がうまくいかなかった時の失敗の原因を探る際に非科学的なアプローチが顕著になる。原因と結果の因果関係がわからなければ、同じ失敗を何度も繰り返すことになり、栽培技術は向上しない。農業の場合、年に一作しか経験できない作目が多い。そのため、一度失敗したらその失敗の原因を探り、二度目の失敗をしないようにしなければならない。失敗の原因を探ることが非常に重要である。
栽培のコンサルタントは現場で質問を受け、そのことを解決するのが仕事である。たいてい、失敗には原因がある。私はその過程を推理小説の謎解きになぞらえていて、答え(原因)を見つけることに全力を傾ける。私が解決方法を見出せるのに対して農家の方が解決に至らない理由は、原因と結果の切り分けがうまくできていないためである。はっきり言っておくと、知識が足りないからではない。植物の特性や土壌の栽培上の特性を知っていても、収量や品質との関係をきちんと把握できていないのだ。

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