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土壌中に過剰になった成分は取り出せない
ただし、ひとつ忠告があります。土には緩衝能力という便利でもあり、不便でもある作用があります。したがって、土を相手にして作物生産業を営むと、その緩衝能力が働いて上の性質を歪めることになります。そして、一度土の性質を歪ませてしまうと、後の修正にはたいへんな金と時間がかかります。
とくに圃場に入れた成分が過剰になってしまった“成人病タイプ”の改良は悲惨です。一度入ってしまった成分を拾い出すことは絶対にできません。
ところが、いまこうしたタイプの歪んだ性質の圃場が増えているのです。これらはいずれも、お金を遣って土をおかしくしてしまったのです。つぎ込んだお金は無駄になったばかりでなく、害までも生んだわけです。どうしてこのような間違いが起きてしまうのでしょう。
こうした種類の障害は、単肥しか流通していなかった時代には起こらなかったことです。しかしその後、単肥の自家配合は不安である、自信が持てないということから、いくつかの成分を化学的に結び付けた化成肥料、成分の違ういくつかの肥料を物理的に混ぜ合わせた配合肥料が登場しました。いわゆる“三要素揃い踏み”です。
これはたとえてみれば、おかずを何種類か別々に持っていくのは不便だからということで、“幕の内弁当”にしてしまつたということです。この幕の内弁当、便利なようでもありますが、既製品であるだけに、食べたいものも、食べたくないものも少しずつ入っています。毎回これを出されるとしたらどうでしょう。
しかも多くの人の場合、必要成分が足りないと減収するのではないかという心配から、ついつい不足している成分の必要量に合わせて化学肥料や配合肥料の全体の施用量を決定していくのです。これを繰り返していけば、過剰なものがさらに過剰になっていく様子は容易に想像できるでしょう。
必要成分として、誰でも第一に考えるのはチッソ成分だと思います。これは目に見えて作物の顔に十分と不十分が表われるのですから。このチッソは、一作終わると、作物に吸収されないで土壌中に残ったもの(これはだいたい硝酸態チッソに変化しています)も、雨水によって作土層の外へ流亡してしまいます。ですから、露地ではチッソの土への蓄積が起こることはありません。
しかし三要素入りの幕の内弁当には、流亡しないリン酸成分とカリ成分が含まれています。このリン酸とカリは、作土浅耕化とも関係して、ごく表層部に過剰成分となっていくのです。
土壌診断をすれば、圃場のそういった状態を知ることができます。ところが、診断結果としてリン酸がどれくらい多いとかカリが通常の何倍も多いとか、具体的に数字で示されても、あるいは「過剰な成分は絶対に入れてはいけない」と助言されても、聞く耳は持たないという人が多いのです。習慣としての幕の内弁当をやめて単肥に切り替えるということはなかなかできないようです。
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関祐二 セキユウジ
農業コンサルタント
1953年静岡県生まれ。東京農業大学において実践的な土壌学にふれる。75年より農業を営む。営農を続ける中、実際の農業の現場において土壌・肥料の知識がいかに不足しているかを知り、民間にも実践的な農業技術を伝播すべく、84年より土壌・肥料を中心とした農業コンサルタントを始める。 〒421-0411静岡県牧之原市坂口92 電話番号0548-29-0215
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