ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

「絶対差」のコチョウランづくり

国内最大のコチョウランの産地である愛知県豊橋市にあって、(株)松浦園芸代表の松浦進(67)は年間出荷量25万本というケタ外れの生産を実現している。ITでガラス温室内の環境を制御するなどして品質は最高級を維持。量、質ともに他者の追随を許さない「絶対差」を追求して国内トップクラスの経営体に上り詰めた今、新たな経営の可能性を求めて海外進出へと乗り出した。 文・撮影/窪田新之助


全長150mのコンクリート通路

東海道線のJR豊橋駅から車で南の遠州灘に向かえば、途中20分ほどで豊橋市東七根町にたどり着く。人影も見当たらない田舎の平坦な道を走っていると、広大な園芸用の施設があるのに気づいた。近づいていけば、「松浦園芸」の大きな看板。事前に調べたとおりのようだ。同社のホームページには1.5haというナゴヤドームが収まるほどの敷地に、1.3haのガラス温室を構えているという記述があった。施設園芸が盛んな東三河地方でも、これだけの規模を目にすることは珍しい。
この温室は、オランダで開発された連棟タイプのフェンロ―型。松浦の長男で中を案内してくれた秀昭(32)によれば、骨材が細くて室内に陰ができにくく、作物にまんべんなく太陽光が当たりやすい構造になっている。取材当日の天候は雨曇りであったものの、施設内に入ってみると思っていたよりもずっと明るい。ただ、そう感じたのは、光が十分に差し込んでいるからだけではなく、広々とした場所に白や赤、ピンクなどの大輪が一斉に迎えてくれたからだろう。
施設内を歩くと、その先進性には驚くばかりだ。なかでも圧巻だったのは3連棟の施設をまっすぐに貫く幅3m、全長150mに及ぶコンクリートの通路。これなら2段づくりの台車で鉢を運搬するのに作業がはかどる。同じ理由でほとんどの部屋は自動ドアで区切っている。
このまま施設内の様子を紹介していこう。育苗は国内外の専門業者に発注しているので、室内のほとんどは出荷場と開花室が占めている。コチョウランを育てるのは大人の膝丈ほどにあるベンチの上。そのベンチは移動式。通常の位置にあれば端がやや通路にせり出した状態になっているが、手で地面と平行して左右に動かせる。台車を運搬する際、通路を狭くしているベンチを退かせるための工夫だ。
ベンチの下には温湯管があり、さらに緑色のネットが地面を底辺にするようにしてピラミッド型に張ってある。聞いてみると、ベンチの網目から落ちるゴミを通路に排出して掃除しやすくするためだという。もしネットがなければ、ベンチの下にたまってしまい、そこから通路に一端履き出すのは時間も手間もかかる。ポットからこぼれ落ちる水苔やバーグなどのゴミをためておくと、コチョウランにとって病原菌の温床となってしまうのだ。実際に年間150万円ほどかかっていた農薬代はほぼゼロになった。
ただ、ネットだと網目にゴミが引っかかるから、ビニールのほうがいいのではないか。そう思ったので秀昭に質問してみると、ネットで囲われたコンクリートの地面に敷いてある透湿性のシートをめくり始めた。その中に手を入れ、何やら黒いものを取り出してきた。細かく砕いた炭だという。これで湿度を適切に調整しているので、網目があるネットにしているのだ。ビニールを張ってしまえば、炭が湿気を吸うこともはくこともできない。
実は施設内の環境はより大きなシステムとして制御コンピュータで管理されている。時間ごとに日射量や温度、湿度、風速、カーテンの遮光率などを計測。制御室のパソコンであらかじめ希望する室内の温度や湿度などを設定しておけば、それを維持するように天窓を開閉させたり、ヒートポンプを稼働や停止させたりすることができる。計測したデータはコンピュータに集積されるので、でき上がった花の品質を見ながら栽培技術を磨いていくのに役立つ。

関連記事

powered by weblio