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岩見家でも祖父の代から水辺の植物を育て始めたが、当初扱っていたのは現社名の由来となったカキツバタ(杜若)、花ショウブ、オランダカイウなど。これは多いほうで、他の農家であれば花ショウブなら花ショウブ、オランダカイウならオランダカイウを専門にする。例外はあっても数種類を作る程度に過ぎない。それが同社では、岩見が脱サラして家業に戻ってから一気に商品群を増やし始めた。25年かけてそろえたのは400種類以上。種苗はいずれも国内外で探し求めてきたもので、「ここにない水生植物はほとんどない」と豪語するほどだ。
つまり、杜若園芸の強さは他農家では追いつかないほどの圧倒的な数をそろえたうえで、それらを「水生植物」という枠組みでくくったことにある。加えて水辺の植物やその種苗をそのまま売るだけではなく、オリジナルの商品を生み出していったことにある。その商品数の多さから毎年作成する自社カタログの厚みは40ページほどに及ぶ。これだけの商品群とその開発の経験があれば、顧客の要望に応じて多様な提案ができる。京都迎賓館や首相官邸などでの庭園づくりの依頼が舞い込んでくるわけだ。
田んぼの土も商品になる
カタログには水生植物を活ける器や鉢、鉢立て、水槽に沈めておく流木や石などの関連商品も載せている。さらに、水生植物に関する書籍に加え、メダカや金魚、タニシなども取りそろえている。
なかでも新奇性でいったら「田んぼの土」がおもしろい。中身は名前のとおり。水生植物を育てている田んぼの土を掘り起こし、袋に4・5詰めているだけといっては失礼に当たるだろうか。でも、本当にそれしか入っていない。水に浸けておけば、土の中に種子として眠っている何らかの雑草がやがて発芽する。あるいはミミズやミジンコなどの生き物が顔を出すかもしれない。販売価格は1050円で、意外にも「かなり売れている」という。多くの都市住民は田んぼの土に触れたことがないため、彼ら彼女らが興味を持ってくれるという発想だ。後述するように、水生植物から派生する商品群を今後広げていくことで、100億円企業に突き進む計画を立てている。
受け継がれる商才のDNA
岩見の話によれば、水生植物はもうかる商売である。たとえば、カキツバタの切り花なら10a当たり換算での売上は300万円。一部には苗の売上が同1500~2000万円に達する水生植物もある。いずれも多年生であり、一度定植すれば10年以上は収穫を続けられる。おまけに肥料や農薬などの使用量は他の作物に比べ少ない。利益率が高いため、真似する人も出てくる。でも、誰一人として長続きしないという。
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岩見悦明 イワミエツアキ
(株)杜若園芸
代表取締役
1963年、京都府城陽市生まれ。龍谷大学経済学部を卒業後、奈良の南都銀行に入行。27歳で退社、花屋で半年間の研修を経て、家業の農家を継ぐ。95年、(株)杜若園芸を創業。1haで受け継いだ経営面積を5haまで広げる。家族は祖母、両親、妻、子ども3人。
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