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前段で米国の主張が盛り込まれ、後段で日本の立場に配慮した共同声明となっていますが、前段の「TPPの輪郭」とは、「関税並びに物品・サービスの貿易及び投資に対するその他の障壁を撤廃する」のことですが、それを受けての後段の解釈で日本側は甘い楽観論を持つに至ったと考えています。
特に「最終的な結果は交渉の中で決まっていくものである」という表現は、米国が仕掛けた「罠」でしょう。実によくできているのは、その直後に「TPP交渉参加に際し、一方的にすべての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」というフレーズを付け加えたことです。
これは、交渉参加に際して関税撤廃を条件としていないと受け取らせるようにしておいて、しかもご丁寧にも、交渉して相手を説得すれば主張が通るように思わせる表現を使って念押しをしてきたことです。その一方で交渉したけど相手を説得できないこともあると言い添えているのです。何回もこのフレーズを読み返しましたが、実によく練られた表現だと思いました。
そして、日本側は、その罠にまんまと引っかかったのです。交渉参加に際して、日本側はTPP交渉で掲げられた目標よりも、「最終的な結果は交渉の中で決まっていくものである」の文言に飛びついてしまったのです。つまりTPP交渉は、包括的で高い水準の協定を目指すものですが、交渉力を発揮すれば、日本側の主張が通ると楽観的に解釈してしまったような印象を受けます。
昨年12月のシンガポールでの閣僚会合の直前に起きた甘利の「ドタキャン」は、例外扱いを約束してくれていると思っていたら、フロマンから原則撤廃だと通告され、わなわなとその場にへたり込んでしまったのでしょう。それが「ドタキャン」につながったというのが筆者の考えたストーリーです。
1月9日、米国議会で「大統領貿易促進権限(TPA)法案」が提出されました。内容は前月号でも紹介しましたが、業界の利益を代弁した議員が提出した法案だけに、相当厳しい内容を含んでいます。その最たるものが「『相当に高い関税、あるいは補助金体制の下に置かれている農産物の市場開放に優先順位を置く』として、相手国の関税を『アメリカの関税と同等かそれ以下の水準にまで削減する』」という案文でした。この法案が議会に提出されたことで、2月のシンガポールでの閣僚会合での「合意」も「大筋合意」も吹き飛んでしまったと認識するべきでした。米国は、日本よりも徹底した議会主義の国ですから、いくらTPA法案が可決の見通しがないといっても、大統領が自国に不利な交渉内容について議会を無視して合意することはまずないとみるべきです。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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