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新・農業経営者ルポ

伝える風味、風土、風景と取り戻すべき地域の誇り


農家が自信を持って作るから
銘菓はできる

話を戻そう。地元で営業を始めたころ、同時に進めていたのは地栗の確保である。出荷してくれる農家を1軒1軒訪ね歩いた末、94年に12戸と契約を結ぶ。それがだんだんと広がって、現在ではJAひがしみの東美濃栗振興協議会の下部組織である超特選栗部会と取引している。この部会は恵那川上屋とともにある組織といっていい。部会が丹精して育てる「超特選」栗の全量を同社が集荷しているからだ。
「超特選」というのは、恵那川上屋と部会との間で新たに設けた最高ランクの品質のことである。従来は「一般」とその上の「特選」しかなかった。04年には「恵那栗」という自社の農業生産法人を設立して、「超特選」の増産に乗り出した。20haの園地に6000本の苗を植えて、自社で雇用する計15人の社員やパートを入れて増産を図っている。
その栗は大きい。筆者の手元にある「天津甘栗」とともに映した原寸大の写真では、倍ぐらいはあるように見える。これだけ大きくなるのは「超低樹高栽培」という独自の整枝と剪定の技術を実践しているからだ。
転作や農地管理用に植えられた園地では栗の樹高は8mになる。しかし、低樹高栽培ではそれを2.5mに抑える。その方法は主枝を亜主枝の分枝しているところで切り落とし、その翌年に骨格枝から発生する長い発育枝を結果母枝とする。定植から15年目以降の樹高は2.5mに抑えられるため、高齢者や女性でも管理が楽である。また、枝が横に広がる分、日当たりが良くて樹体が生長することから、でき上がる栗は自然と大きくなる。
超特選の条件はほかに「5S」と呼ぶものがある。5Sというのは「太陽(SUN)」に加えて、「選別」「剪定」「スピード」「性格」をローマ字書きしたときに共通する頭文字「S」を取って付けたもの。このうち、「スピード」については、農家は早朝に収穫したらその日のうちに加工場に運び込むことになっている。また、作り手の「性格」については「嘘をつかず、素直で前向きな人」を重視している。
超低樹高栽培を30年の歳月をかけて開発したのは、岐阜県農業試験場の元職員である塚本實氏だ。彼が農家の指導にも当たってくれたことで、「超特選」栗の生産量は年ごとに増えていった。農家が頑張るのは、買い入れ価格を相場平均の倍となる1kg当たり750~800円に設定していることが大きい。努力するほどに「超特選」としての歩留まりは高まり、収入は増えていく仕組みである。それが地元の銘菓に変わるのだから、やる気も出てくるわけだ。鎌田は思う。「農家が自信を持って栗を作るから銘菓はできる」のだと。

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