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実践講座:したたかな農業を目指す経営管理 入るを計り出を制す!

勘定其ノ一 損益計算書から地代を読み取る

日本の穀類を主体とした土地利用型農業。農地の規模拡大は、果たしてどこまで可能いや望むべきなのだろうか? 北海道では開拓以来、規模拡大を目標に農業を進め、穀類生産を主体に営む経営者も意欲的にそれを目指してきた。近年は穀類生産の主力地域では後継者不足も相まってか、農地の規模拡大は続いている。
一方、土地の基盤はいまだ脆弱で、気候にもツキにも見放された裏目の状態である。食糧増産期以降、下落したといわれる農地だが、生産性の割に世界的にも高値が事実である。土地基盤では、区画は小さく農道は大型作業機の進入を拒み、大型作業機の導入と進化は進むものの、世界の名だたる穀倉地帯の、埃を巻き上げ快走するトラクタ作業の風景にはほど遠い。日本の農家の宿命である基盤整備や土づくり。これに精力的に挑んできた篤農家でも、圃場のきつい勾配や特殊な土壌はいまでも完全な解決ができず、異常気象が大規模農家に試練を与え続けている。
ありきたりな言い方ではあるが、儲けることができる「日本型大規模農業」の展望は、世界の農業をお手本にしつつも、日本の気候・風土にマッチしたオリジナリティにあふれる技術革新。これに迫れなければ、実現は困難を極めるであろう。
これからの3回は勘定の章として、採算を合わせる大規模経営、施設園芸の利益UP、商品開発と原価をテーマに、読者の皆さんとともに生産原価や利益について考えてみたいと思う。今回は経営者が報酬を得ながら、土地利用農業の規模拡大時にどのように帳尻を合わせるか。損益計算書から考えていく。

頭を悩ませる地代の捻出

税法、農水省が定める生産費、法人か個人事業かの詳細なことはさておき、農地の規模を拡大するときの地代の捻出について考えてみる。規模拡大を進めたり、大規模経営を安定させたりするにも、地代捻出の意識を持つことが欠かせないからだ。
表は損益計算書を少しアレンジして、利益の成り立ちを簡潔に示したものである。個人事業の場合には、社長の役員報酬は費用から除き、利益合計額と加わるようにしてほしい。理由は会社の資金繰りに、社長の役員報酬を増資や融資の資金源として利用する場合が多いからである。複数戸の組織法人の場合は、役員報酬すべてを同様に扱う。
表の例では年負債償還額を除くと、10a当たりで2万2000円が経営の利益となり、経営者の報酬であると捉えることもできる。ここで考えてほしい。この利益は、経営者と農地がなければ生み出されなかったと考えたら、農地の取り分(地代)が存在するはずである。誰に払うわけでもないが、地代とは農地が生み出した利潤であるといっていい。ここでは、経営者、農地どちらが欠けても経営が成立しないから、折半(50%ずつ)とした。無論、借地の場合は小作料が支払地代であり、小作料は地域差を含むが、経営者の報酬との比率は明確に比較できる。所有地と借地が混在する場合も、その比率を考慮すれば同様の比較が可能である。小作料が妥当なのかを検討するのにも役立つ。
規模拡大への投資に当てる財源は、この地代相当分である。30haの経営体が農地を新たに購入するならば、330万円を返済原資に当てることができる。10年で返済計画を立てるならば、大まかに規模拡大時に必要な機械や施設の追加投資と合わせて、3000万円程度の投資が可能と考えることができる。これ以上の投資や農地を買い足したいのであれば、経営者報酬を犠牲にしてもいい。ただし限界はあり、年額660万円と同様の考え方でいけば、6000万円程度であろう。
「10年後は倍返しダー」の勢いは良いが、20年間で割り返すと年額は同じになるので注意が必要である。経営面積を急増させては、利益が円滑に生まれるまでに倒産してしまう。言い換えると、性急な規模拡大の落とし穴はこれに尽きるといっても過言ではない。なお、賃貸借で増やす場合は、10a当たりの報酬(表の12)を目安にする。利益以上の金額の小作料は赤字の原因となる。
ここが冷静に押さえなければいけない事柄である。まず大まかに農地の規模拡大を目指しても良い経営なのか。現時点の収支から捉えることができなければ、負債は重くのしかかり、経営存続を困難にする。また、後継者が地域に少ないから規模拡大ができる、するではない。農地を守る、地域を守るでもない。農地の規模拡大から儲かる絵が描けなければ、新たに経営面積を増やす意味はまったくないと言っていい。 
仮に貸借対照表に流動資産や自己資金の預金が沢山あって、農地購入資金の資金繰りに困らなかったとしても、報酬と地代が十分に生み出されていなければ、投資する意味はない。現時点の損益計算書は、経営のバロメーターだからだ。「節税しているから、計算書は合ってない」ではない。そうであればなおこと、資金繰りを熟知しているのだから、損益計算書から地代を読み取れるであろう。

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