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農業経営者ルポ

大規模・分業化の中で「百」姓の原点を取り戻せ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第17回 1996年06月01日

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倉持信之さんが経営する㈲山西牧場は、従業員9名、母豚700頭の一貫経営の養豚場である。生産する肉の6割は一流デパート10数店舗で「山西牧場」のロゴを掲げて独白の販売コーナーで直売している。
 倉持信之さんが経営する(有)山西牧場は、従業員9名、母豚700頭の一貫経営の養豚場である。生産する肉の6割は一流デパート10数店舗で「山西牧場」のロゴを掲げて独白の販売コーナーで直売している。ハムなどの加工品もオリジナルブランドで製造販売する。養豚場の一部には鹿、ポニー、羊などを放牧して、牧場の雰囲気を楽しみながら“豚肉を焼いて食べる”バーベキューハウスも建てた。またそれが新規顧客の開拓にもつながる。

 今回、紹介するのは本業である豚肉の生産販売というより、糞尿処理の一環として取り組んでいる野菜の流通についてである。

 倉持さんは養豚家であるとともに「スーパーアグリシステム」という農産物の流通・販売組織の主催者でもある。新感覚の生鮮野菜マーケティングは市場関係者の注目を集めている。そして、そのノウハウを全国の養豚家に広め、絵空言ではない畜産と耕種の有機的結合の再構築を目指している。それは倉持さんの生き残りをかけた事業展開であるとともに、養豚業者としての社会的責任であるとも考えているようだ。


安全でうまい豚肉の追求


 始まりは、安全でうまい豚の追求だった。現在の養豚で標準となっている豚肉の品質や食味への疑問と本物志向の肉作りへの挑戦でもあった。そして、抗生物質や薬物の残留のない、安全でうまい豚を育て、自分自身の手で売りたいという夢だった。

 現在の養豚・食肉業界では「フレッシュ」ということばかりが語られるが、実は肉であれ魚であれ「フレッシュ=新鮮」とは肉が「硬い」ということにつながると倉持さんはいう。本来は「ソフト=柔らかさ」こそが肉のうまさのベースにあるのであり、そのためには屠畜後の「熟成期間」を必要とする。しかし、現在の養豚界では、赤肉歩留りを上げる効率ばかりが重視され、それで肉の評価が定まる。しかし、本当の肉のうまさと現在の評価基準とは別にあるというのだ。「フレッシュ」が要求されるのも、実は日本の屠畜場の衛生管理の悪さからである。フレノンユでないと肉が腐敗し、臭くなってしまうために肉のうま昧を出す『熟成』の過程を作れないのだという。また、薬付けもその一因だ。

 現在の日本の消費者は高いお金を出して、まずい豚肉を食べさせられている。現在の養豚界は生産者の都合だけが優先している。また、そうしなければ成立できないでいるのが養豚場の現実であると倉持さんはいうのだ。

 お客さんに売るのは、肉がもっともうまくなるタイミングでなければおかしいと倉持さんは考える。それを供給するのが豚屋や肉屋の務めではないかと。

 肉を自分の手で自らのブランドで売ろうとするのも、単に直売の利益を考えるだけではなく、そうしなければ本当にうまい豚肉は、お客さんに提供できないと考えているからだ。

 種畜の選択から薬剤の残留のない飼育方法など、安全でうまく、そして十分な熟成期間をおいても腐敗や異臭の発生しない豚の育て方の工夫が、結果として倉持さんの糞尿処理システムとそれに由来する液肥の生産やスーパーアグリシステムヘと結びついたのだ。

 糞尿処理も現在のスラリー処理にいたるまで試行錯誤を繰り返した。さまざまな微生物資材も使ってみた。ところが、ヒューマスという「腐食物質」を使うことで問題が一挙に解決した。ヒューマスとは、腐食した古代の土であるという。その効果の理由は正確に理解されているわけではない。しかし、ヒューマスを豚の飲料水に混ぜ、それを飲ますことだけで糞尿の臭いが消え、また豚の健康管理と肉質の向上にも結びついた。

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