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【岡本信一の科学する農業】
名人が一つ一つの作業を丁寧にする理由を考える
- (有)アグゼス 代表取締役社長 岡本信一
- 第30回 2014年04月21日
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作業の方法を教えるだけでは
適切な作業はできない
さて、誰かに作業を教える時に、どのような点に留意して皆さんは教えているだろうか。例えば、ロータリー耕であれば、ギアを何速に入れて、PTOの回転数を〇〇に、ロータリーの作業深さは△△という感じで教えるのではないだろうか。これは作業の方法を教えてはいるが、作業の意味については教えていない。
作業を教える上でもっとも重要なのは、作業方法を教えるのではなく、なぜ、その作業を行なうのかを教えることである。最大の理由は、やり方を教えただけでは、どのような作業が丁寧で良いのかがわからないためである。簡単にいえば、どのような結果を求めて、その作業を行なうのかを明確に伝えなければ、良い結果が得られないのだ。
再びロータリー耕を例に挙げてみる。ロータリー耕は播種準備のための耕起作業である。適度な大きさに土塊を砕いて、次の工程である播種作業が滞りなく行なわれるように整地すること、順調に発芽・出芽が揃うように種子に水が移行しやすいような状態にすることなどがその目的である。
しかし、多くの方がロータリーの作業を定型的にしているようにみえる。というのも、どのような場合でも圃場の見た目をきれいにするために同じような作業をしているのである。低速でPTOの回転数を上げ、二度三度かけることは場合によっては必要なことだが、土塊が細かくなりすぎる弊害のほうが大きくなることの方が多い。燃料も必要となる上に、時間もかかってしまう。
極端な例を挙げると、土壌が水分の多い状態でロータリーをかけてしまうことにより、砕土ができずに土塊ができ、播種作業ができなくなるような場合がある。降雨が続いて思い通りの作業ができなかったり、土壌条件を知らない初めての畑であったり、条件の悪い状態でも安易にロータリー耕をすれば、その後の播種作業や発芽に悪影響を及ぼすことになる。
発芽に必要な条件を細かく考えてみる。水分が土壌から種子へ移行するには、土壌粒子が細かいほうが良い。ところが、細かすぎると土壌が締まりやすくなり、降雨の際には土壌中の酸素が失われやすくなり、呼吸が妨げられ、発芽や出芽に障害が起きる可能性がある。
それでは、ロータリー耕はどの程度行なえばよいのだろうか。答えは、細か過ぎず、粗過ぎずという適度な粒子になるのが丁度よいとなる。土質によって違うので、発芽や出芽が揃うように播種床をつくるのが「丁寧な作業」だとしか言いようがない。いわゆる名人と言われる人に話を聞くと、播種床をつくるこの作業に非常に気を遣っているのがわかる。
そんな細かいことを考えていられるか、と思われるかもしれない。もちろん大規模化しつつある現在の状況では、本当の意味で細かい作業は不可能に近いし、土壌条件を把握するのも、条件に合わせて作業を変えるのも難しいかもしれない。だが、播種床はロータリーで土壌を細かくすればいいのだ、というような単純な考え方は間違いである。作物によって発芽のみならず、その後の作業や生育に影響を与えているのだから。同じロータリーを使っても、むしろ速度を早くして、PTOも低回転のほうが良い場合もあるということだけは頭に入れておいても損はないと思う。
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岡本信一 オカモトシンイチ
(有)アグゼス
代表取締役社長
1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、 北海道の農家にて農業研修。派米農業研修生として2年間アメ リカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年 農業コンサ ルタントとして独立。 1998年(有)アグセス設立代表取締役。農業 法人、農業関連メーカー、農産物流通企業、商社などの農業生 産のコンサルタントを国内外で行っている。講習会、研修会、現地 生産指導などは多数。無駄を省いたコスト削減を行ないつつ、効率の良い農業生産を目指している。 Blog:「あなたも農業コンサルタントになれる」 http://ameblo.jp/nougyoukonnsaru/
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