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このテーマは、民主党政権時代の10年、内閣府の規制改革・制度改革に関する分科会でも取り上げられましたが、抵抗勢力の妨害で、その岩盤を貫くことができませんでした。
農協への独禁法の適用除外について、基本的な点を整理してみたいと思います。これについて公正取引委員会は、09年に次のような指針を示しておりました。
適用除外の対象について、「連合会及び単位農協が、共同購入、共同販売、連合会及び単位農協内での共同計算を行なうことについて」と具体的に例示しています。したがって、それ以外の事業活動に対しては、民間企業と同じように独禁法が適用されることになるということです。その指針では、次のような具体例が示されています。
「農協が組合員に対して農協の事業の利用を強制することは、そもそも農協制度の趣旨に反するものであるが、さらに、組合員の自由かつ自主的な判断による取引を妨げることや、農協と競争関係にある商人系事業者等の取引の機会を奪うことなどを通じて、農業分野における競争に悪影響を及ぼすことにもなる」
「組合員に対して農協の事業の利用(いわゆる系統利用)を強制したり、農協と競争関係にある商系事業者と組合員が直接取引すること(いわゆる商系取引)を妨げるといった問題行為に関して、公正取引委員会が法的措置や警告を行ったものが平成元年(89年)以降で12件あったところである(10年1月現在)」
そもそも農協に独禁法の適用除外が認められたのは、農協が「小規模な事業者である農業者が相互扶助によって、経営効率の向上や生活の改善を図るとともに、その組合員のために最大の奉仕をすることを目的としている」(同指針)という前提があるからです。その弱者が団結した農協なり連合会が、特定地域において、あるいは特定の商品やサービスにおいて独占する状態になれば、公正な競争が著しく阻害されることがあります。
その適用除外によって生じた競争を阻害する事態は、独禁法第2条第5項が禁止した「私的独占」になるというのが、筆者の見解です。その条文は、次の通りです。
「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」
これを素直に解釈すれば、手段のいかんに関わらず、結果として、「支配することにより」「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という要件を満たせば、「私的独占」に該当することになるでしょう。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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