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新・農業経営者ルポ

地域と歩む企業養豚の経営者

フリーデン、畜産業界でこの名を知らない人はまずいないだろう。豚肉を扱う畜産企業として8つの関連会社を傘下に持ち、年商は180億円に達する。5代目社長として采配をふるう大谷康志が今回の主人公である。 文・写真/窪田新之助、写真提供/(株)フリーデン
新宿と小田原を結ぶ小田急線の東海大学前駅から車に乗って5分ほど、大学のそばを抜けるとフリーデン本社の白い建物が見えてくる。といっても、ここにあるのは事務所だけだ。養豚場は東北・関東地方の各所に広がっている。経営の特徴はなんといっても、オリジナルブランド「やまと豚」をつくるため、養豚から豚肉の加工、販売に至るまでの一貫体制にある。
その養豚スタイルはいわゆる「ピラミッド方式」というものだ。アメリカから輸入した精液は自社の一関種豚センターで日本人の嗜好に合うよう育種・改良され、母豚(PS)は各肥育農場へ、また父豚は岩手県と群馬県にあるAIセンターで精液を採取して無菌化され、肥育農場に配布して人工授精をする。このシステムは原原種、原種、肉豚の生産に至るまで他から生体が入ってくることは一切ない。すべてがピラミッド方式の徹底した衛生管理体制のもとで生産されているのだ。
その狙いは肉質を均一化すること。原原種、原種牧場は計3カ所。このうち、岩手県一関市にある直営の一関種豚センターは、11haの敷地面積で月間のPS出荷頭数は500頭になる。同じく一関市にある提携の(有)いわい種豚場は26haでPS140頭、福島県の東和牧場(SPF豚)では10haでPS140頭という桁外れの規模を誇っている。
ピラミッド方式のもう一つの目的は衛生管理。外部から生体を持ち込まないことで、養豚場に病原菌が侵入する危険性を最小限に抑えている。その関連で2012年には国内の養豚場では初めてとなる農場HACCP認証を取得した。食品を製造、加工する過程で想定される汚染物の発生などあらゆる危害を未然に防止するためである。また、雄豚のDNAデータはすべて家畜改良事業団前橋研究所で保管している。出荷後になんらかのトラブルが起きても、すぐに生産履歴をたどって問題の所在を追及できる。
DNAをデータ化することで個体それぞれの繁殖成績もわかるため、必要以上の雄豚を飼う必要がない。また、人工授精についてはDNAデータを活用し、受胎適期が把握でき、過去においては発情のたびに授精を3回実施していたのを2回に抑えることができた。これによって人工授精の手間だけではなく、餌代を減らすこともできた。
こうした高度な管理体制で生産する「やまと豚」は百貨店や量販店に固定価格で卸している。ロットの大きさと高い衛生管理体制、さらには定時・定量の出荷を厳守していることもあってこそできることだ。また、東京の銀座や南青山、それから横浜ランドマークプラザに構える直営レストラン「豚肉創作料理やまと」では豚肉のおいしい食べ方をメニューとして提案している。

米国型養豚と初代社長との出会い

今や国内有数の養豚企業となったフリーデンの歴史は1960年にさかのぼる。創業に携わったのは養豚農家ではなく、神奈川県平塚市在住の豚の仲買業と4人の野菜農家たちだ。これからの時代は良質な動物性タンパク質を提供することが自分たちの使命だと信じた彼らは、米国型の大規模養豚経営を目指した。
そのころ、大谷はどうしていたのかといえば京都の小学6年生である。生まれは、京都市のど真ん中で黒染めを商いとする老舗。ただ、五男だったので家業を継ぐ必要はなかった。やがて地元の高校に入学すると、将来の職業を思い描くようになる。浮かんだのは農業だった。とはいえ、農業は品目だけを取っても多岐にわたっている。それにどこで、どう始めたらいいのかよくわからない。高校の先生に相談すると、「本当に農業を目指すならブラジルはどうだ」と勧められた。

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