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生産量が高く、おいしいトマトづくりのプロの経営があったとしよう。その農場では味の濃い、トマトジュースも製造し、評判は良いが生産量は少ない。そこに、ある企業がやってきて、そのノウハウを高く評価し、頭を下げて提携による製造が拡大できたとする。やり甲斐は企業のノウハウと融合し、提携条件だけ有利に運ぶことができれば、農場にとって悪いことは一つもない。
私はしたたかな戦略を持つ食品業界のプロと農業生産プロの提携を「王道」と見ている。その道の先に「六次産業化」があるのだが、農家らしい農場独自の農産加工、レストランなど付加価値アップを目指す実践者なくして、地域振興は描けない。
ジュースに加工するほうが
そのまま販売するより儲かるか
これまで4月、7月号で紹介したトマトを例に、トマトジュースの加工の事例から、農産加工の勘定のコツとして紹介してみる。
表2は、1回の作業で 125kgのトマトをジュースに加工できる施設を整えて製造した場合に、トマトジュース100本当たりの収支を示したものである。この加工施設では年間5000本を製造する想定で、1回分を100本とした。先の項まで述べたように、計画なくして分析はない。また分析なくして計画はない。農産加工でも同様である。
生産農場自体が生産物の加工を行なうとき、原材料を生産している強みからか、原材料代を勘定に入れないことが多い。表2では原材料費を1kg当たり289円として、100本の生産に用いる125kg分の3万6000円を含んだ収支を試算した。つまり、一つ目のポイントは、原材料費に、農場で販売している生産物の平均単価でしっかり計上して収支を睨むことである。
次に労働対価について考えていきたい。表2には1時間当たりの利益(時給)が1300円とある。トマトの償却前所得は1400円である。コツの2つ目は、農産物の生産部門の労働生産性と同額以上に1時間当たりの利益が得られること、得る計画を練ることを挙げる。せっかく付加価値アップを目指して苦労と休む時間を惜しんで、加工を行なったのに、農業生産より時給が落ちているのであれば、加工せずにそのまま販売したほうが良いのではないかと結果的に思ってしまう。これは避けたい事項である。
3つ目として販売額の設定の考え方を挙げる。この投資分析では、1回転で100リットルのジュースをつくる設備を想定しているが、建物を含めて約600万円強の投資が伴う。これを加工品の売価にきちっと反映しなければ、事業にならず、単にやり甲斐だけとなってしまう。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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