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岡本信一の科学する農業

失敗する前にやっておくべきこと

今後、農業界は大きな変化を迎えるだろう。多くの人はその変化の兆候を感じていると思う。その変化の際に失敗せず時代の流れに乗るためにはどうしたら良いのだろうか。 未来など誰も本当の意味での予測などできない。おおよその想像はつくにしても、細かなことまではわからない。ビジネスや技術の面では、大雑把な予想も大事だが、実際に変化の波に乗っていく時に大事なのは、その変化した内容を正確に把握することである。つまり何が根本的に変わり、その変化にどのように対応するかということである。
表面的な変化であれば、誰でも気づくが、細かな部分は同じように見えても実は変化していて、それに対応できないということがある。技術的側面においてはその細かなことに気づけるか気づけないかの違いが大きく、失敗に至る最大の原因といえよう。
例えば、点滴灌水チューブという資材がある。チューブ内で減圧させ、一滴ずつ吐出した水が土壌に浸潤する。従来の散水型に比べると必要となる水が少ないので、大面積に灌水できるということで注目された。実際には点滴灌水の効果は奥が深い。土壌に少量の水がゆっくり浸潤していくため、土壌中の酸素を追い出しにくく、さらに、液肥を利用すれば作物の栄養生理に応じた追肥の施用にも適する。海外では、灌水という目的よりも、水と肥料を同時に灌液として与えられる資材として理解されている。

新しい技術を活かせる人は
何が違うのか

点滴灌水チューブについて一度は説明を受けたことがあるだろうし、カタログなども手にしているかもしれない。だが、多くの方はカタログを熟読しないし、営業マンの説明など話半分くらいにしか聞いない。
従来の散水型から点滴灌水型に移行すると、栽培においてはかなり大きな違いが生じる。極めて大きな転換をしているはずなのに、全く栽培方法を変えない人もいれば、施肥体系から抜本的に変える人もいる。はっきり言えば、前者は使いこなせていない人で、後者は新しい技術を活かせる人である。
栽培技術面から見る、とこの違いはすぐにわかる。まず、点滴灌水がきちんと使用されているかどうか。次に、灌水方法の違いにより作物の生理状態が変わったことに気づくかどうか。そして、点滴灌水に応じた施肥体系や水管理などができるかどうかなどの違いが出てくる。つまり、「点滴灌水」という大きな変化は誰にでも理解できるのだが、栽培条件がどう変化するのかを想定して対応できる人はかなり限られるのだ。
大きな変化が栽培技術に関わるものだと、変化を明らかにしやすい。作物の出来として現れるためである。作物の出来の違いに気づけば、原因の追求は比較的容易である。
しかしながら、点滴灌水について理解していないと、点滴灌水チューブという資材が悪いと安易に片付けてしまいがちになる。そうなると、原因究明はそこで終わってしまう。原因もわからないまま、栽培の失敗だけが記憶に残るという最悪の結果になってしまう。失敗の原因がわからなければ、偶然にさまざまな条件が見合った時のみ成功できるということになる。栽培技術的には、非常に恐ろしい状態である。

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