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読み切り

農協金融9月危機説は本当か!'96年・日本大冷害のシナリオ・狂牛病は対岸の火事か!?

冷害が「米」を変える

 とはいえ、実際に凶作が発生すると、生産・流通現場は相当混乱するだろう。

 実は農水省・食糧庁は、新食糧法の施行後しばらくは、米はやや過剰気味に推移するのが理想と考えていた。というのも、米余りだと農家は米の販売先を見つけにくいので、自然と農協に米が集まり、従来型の流通を維持できる。しかも、それほど余剰はないので、農協は米を楽に売りさばける。一方、国産米が十分に存在する限り、食味面で劣る輸入米はそれほど家庭用としては売れない。しかし、加工用としては都合よく売りさばくことができ、在庫を抱える心配もない――というわけだ。

 ところが、新法元年から2年連続で大量の米が余った。農協に米が集まったのはいいが、とても販売し切れず、処分に汲々としている。政府保有米はもっと深刻で、国産米、輸入米とも、とても売り切れそうにない。

 ここで今年、凶作になるとどうなるか。農協も食糧庁も在庫を処分できるメリ。トはあるが、困るのは農家だ。先述の通り、売り物は少ないのに、価格は上がらないからだ。

 しかし、最上質の米に限れば、価格は上昇する可能性がある。政府保有米は品質がもうひとつだし、農協保有米の中には新潟コシヒカリのようなブランド米も存在するだろうが、なんと言っても古米である。やはり新米にはかなわない。それに、有機栽培米など特別なプレミアム米の在庫は薄いから、もし作柄が悪いとなれば、取り合いになる可能性もある。

 こうした上質米は、農協ではなく、民間の流通業者がかき集めるだろう。したがって、農家は相場を慎重に見極め、買い叩かれないように気をつける必要があ  そして、もし凶作になった場合、農協は完全に上質米流通から取り残される可能性がある。もちろん、農協も「計画外」の産地直送販売に乗り出しているが、ノウハウがない。農協は政府米価の高値据え置きを勝ち取るノウハウは蓄積しているが、営業能力には乏しい。

 とはいえ、それでは農家は上質米ばかり作るのがいいかというと、なかなか判断が難しい。いうまでもなく、上質米は異常気象に弱いからだ。アメリカでは、上質米は高く売れるとわかっていても、上質米の栽培面積を抑制し、耐冷性品種を多く植える。カリフォルニアの農業経営者が「それが経営というものざ」と語っていたのを思い出す。

 一方、流通業者は農家から上質米、政府や農協から標準米を手堅く仕入れる技能が問われる。この業界はただでさえ免許制が廃止されて登録制に移行したことで、競争が激化している。豊作だとなんとなく米を売り抜けていればいいが、不作の際は商品の調達から販売まで知恵を絞る必要が生じ、差がつきやすい。

 国産米に不足感があれば、輸入米も市場に浸透する機会を得る。まずはブレンド需要からだろうから、売れるのはカリフォルニアの短粒種だろう。カリフォルニア、オーストラリアの中粒種も、それほど短粒種と変わらないから使えるかも知れない。いよいよ米の世界も国際競争の時代に突入する。

 さて、気になるのは消費者の米需要だが、ばかばかしい混乱のたびに米の消費量は減ってきている。先の米騒動の時もパンやめん類に需要がシフトしたが、今回、また米不足から質の悪い米が出回るとなると、消費が低迷しかねない。

 米は相変わらず日本人の主食で、都会の若者も実は「ごはん」が大好きだ。知り合いの結婚式で、フランス料理のフルコースを食べた後で、大学生の男の子が「パンじやなくてごはんだったらもっとおいしく食べられたのにね」と話していた。稲作農家の皆さんは自信を持っていただきたい。

 しかし、残念ながら、どうしても米を食べなければならないわけでもない。高ければ、また品質が悪ければ、すぐにほかのものに取って代わられる。現代は、うどんもパンもスパゲティも手軽に楽しむ時代だ。「米は値段などに左右されず、常に一定量消費される」という幻想は、そろそろ捨てなければならない。

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