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新・農業経営者ルポ

農業を「食業」、そして「農村産業」へ


「地域起こしをするには酒飲みをする場所が欲しいんです。この辺りは家が200戸しかないから、普通であれば採算が合わないというので誰もやらない。でも、この近くで飲み屋といったら5離れた冠婚葬祭場しかない。それも予約制。それでは駄目なんです。気持ちが高まったときにすぐに話せる場所がないと。今日は酒飲みすっか、っていうときにすぐに集まれないとね」
NPO法人の会員は60人。主な活動の一つは毎月第一月曜日に開催する「しゃべり場倶楽部」。伊豆沼農産のレストランの一室に住民1人を招き、会員の前で好き勝手に1時間話をしてもらう。それは話者が自分の人生を振り返る良い機会になるそうだ。また、聞く側にとっては地域の歴史や文化、生活、技術など多方面で思いがけない発見がある。冒頭に触れた「新田」の名前の由来についても、こうした宝物探しの一環で知ることとなった。
では、聞き出した話をどう生かすか? 計画しているのは、関東圏の子ども、特に小学生向けに年間のパッケージツアーを組み立てることだ。そのために、伊豆沼農産の敷地とJR東北本線の線路を挟んですぐ向こう側にある1万坪の土地を買い取った。ここに農場と各種の体験施設を用意する。農場では野菜の収穫をしたり、豚や鶏と触れ合ったりしてもらう。
特に活躍を期待したいのは高齢者だ。彼らの仕事は「昔の話や昔の技術」を伝えること。体験施設で民話や伝説を語ったり、竹とんぼや草笛の作り方を教えたりする。高齢者にはそれだけの知恵と技が宿っている。伊藤はそのことをしゃべり場倶楽部で確かめた。高齢者がツアー体験の場でも滞りなく子どもたちに教えられるよう、伊豆沼農産は高齢者を教育するインストラクターを養成しているところである。
昔の話や昔の技術を伝える高齢者が増えていけば、彼らは生き生きとした日々を送り、病院や介護施設に通う人が減るだろう。それに高齢者は仕事で得た金を地元で使う。あるいは孫に小遣いとして与える。その小遣いで孫も地元で菓子やおもちゃを買う。地域では小さいながらも経済の循環ができていくに違いない。

ちょっと不便が心地良い

都会の人たちを引きつけるもう一つは、伊豆沼をはじめとする豊かな自然環境。伊藤が興奮気味に語る。
「伊豆沼の価値、これはすごいですよ。最たるは鳥。日本の8割の雁がここに来る。そのねぐら入り、飛び立ちはいい。ほかにも夏の渡り鳥とか昆虫とかが豊富。ただ、残念ながら豊かな恵みが生かされていない。たとえば、水産物を食べる人がいない。それは食べさせる人がいないから。最近の若い人たちは鮒や鯉は小骨が多いから食べない。でも丸ごと食べて、口から小骨だけを出す方法があって、俺なんかはできる。生活の知恵ですから、そういったことも教えていけばいいんです」

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