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座談会

農業経営者が覚悟すべき交付金制度の今後

東京大学大学院農学生命科学研究科
教授 本間 正義

NPO法人 日本プロ農業総合支援機構
理事長 高木 勇樹

『農業経営者』編集長 昆 吉則

比較的規模の大きな土地利用型経営者の多い本誌読者は、現在のバブルともいうべき交付金あるいは直接支払を受けている。それによって読者たちの財務内容は改善されてきている。その資金や財務体質改善が、あらたな経営創出につながるのであれば、構造改革を進めるうえでも効果的なことだろう。しかし、本来、マーケットの要求にこたえればこその経営健全化が進むというべきだが、農業経営の政策依存度を高め、経営者の意識改革をとどめている側面もある。 本誌は、これを機会にコストダウンや規模拡大が可能になる畑作作業機による水田技術の定着やトウモロコシ生産に向かう投資や意識改革が進むことを期待している。少なからぬ読者たちは、そうした方向を目指しているが、さらに現在の交付金や直接支払の減額や中止された場合の準備に取り組むべきではないだろうか。
昆 今、交付金で3000万、5000万、中には1億円超える額をもらっている生産者もいて、交付金バブルのような状態です。北海道で大規模な展開をしている生産者が、高額の交付金を別の事業に投資して有効に使うケースもあれば、生活費に回したり、外車を買ったりしている人もいます。この交付金が農民層分解といいますか、構造改革に大きな役割を果たすだろうし、今までの規制改革と違って、政府が本気になっている感触がある。その一方、財政問題やWTOルールを考えていくと、このレベルがこのまま続かないことは自明なわけです。生産者は早く覚悟を決めて、新しい経営の方向性を作っていかなければいけない。そこで農水の行政の中心におられた高木先生、規制改革会議の農業の委員をやっている本間先生、それぞれのお立場を踏まえながら、読者たちに有用な助言を提供したいと思います。
本間 経緯を振り返りますと、今回の交付金は、そもそも民主党政権で導入された所得補償に端を発しています。民主党は魅力的なネーミングを得意にしていたものだから、なんとなく新しい政策のような印象を持った(笑)。でも基本的にあれは価格政策で、仕組みとしては旧食管制度と同じ。まさに20年先祖返りしてしまったわけです。それが近年、15000円が7500円に減額し、数年後にはなくすという流れになり、自民党では直接支払を推進しようとしている。
直接支払が基本になっていくのは理解できるんですよ。今、直接支払、ないしはデカプリングで所得政策にする世界的な潮流がありますから。物の値段は市場で決めようという中で、補助金が全くなかったり、関税を撤廃して素手で戦うというような話は考えにくい。しかし順番としては、本格的な所得政策の導入をするよりも前に、グローバルに対応できるような構造改革をするべきではないか。まずは構造改革のモチベーションを与える政策を採って、競争を勝ち残って体質強化された人たちに対して、安定的な補償を与えるべきです。「面積に応じて、一括でお金をどんと差し上げます」では何ら構造改革のモチベーションを与えません。

昆 TPPに反対する人の中には、「欧米では所得の7割は直接保障だ」という意見を目にしますね。
本間 いや、欧米の政策がまさにそのような補償なんですよ。EUで言うと、1990年にマクシャリー改革を始め、価格政策を一気になくして、国際価格並みにした。その構造改革の後に残った人たちに地域の農業を任せる、つまり血を流した人たちを守っていくプロセスなんですね。ところが日本はそれがなくて、「大も小も中も微も全部今のままでいいですよ」というのだから、これでは構造改革が進みません。直接支払だけやって、実は構造改革が念頭にないというのは、安定経営どころか全部が地盤沈下していく気がするんですね。

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