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実践講座:したたかな農業を目指す経営管理 入るを計り出を制す!

土づくり其ノ一 儲けは後からついてくる!? 有機物投入で農地を肥沃に

江戸時代の循環型農業

「店子の尻で大家は餅を搗く」の店子は長屋に住む人、大家は貸し主。この有名な川柳を私流に解釈してみた。江戸の町民は、その食生活から魚介などタンパク質を多く摂取していた。長屋では共同トイレがあり、その糞は、近隣の農家から賞賛される大人気の有機質肥料であった。大家は、仲介役の問屋や、篤農家の豪農と取引をし、家賃収入以外で儲けていた。がめつい大家を皮肉った川柳であるが、気の利いた大家は、たぶん長屋の住人に、儲けた銭の一部は独り占めせず、正月の餅を搗いた後は、お裾分けする。
江戸時代の循環型農業を、上手に表現した一つと受け止めることができる。糞の他にも灰の取引や、旅人の草履を回収し、堆肥にして農地に還元していたとされる。鎖国時代にほぼ自国の資源だけで生きながらえるために、誰が提唱したわけでもなく、循環が成立して平和が保たれていたのであろうか。はたまた生産力を高め、儲けたいと願う当時の篤農家の知恵であろうか。
江戸時代の農法は、あのリービッヒにも絶賛されている。リービッヒは「無機栄養説」を唱え、作物の栄養源は無機物質であるとした中世のドイツの研究者である。この説を私はこう解釈している。作物は有機物で育つのではなく、化学肥料が最適であると。一方で、その少し前に腐植栄養説を唱えたテーアは、「利潤の追求が農業であり、その最も重要なのは、土の生産力である。生産だけでは消耗するので、堆厩肥や輪作などを駆使して、地力を維持しないといけない」と述べている。
農業経営者が今後の農場運営を考えるのは、利潤を追求する傍らで、いかなる事態があっても国民に、食糧を持続的に提供することである。普段から販売活動を通じて日本農業が支持されていれば、農業経営者自らが土づくりを怠りはしない。
今月からの3回は、投資すれども回収がことのほか難しい土づくりについて、「有機物投入の心構え」「異常気象に負けない土づくり作業機の活用と導入」「基盤整備と大区画化の投資効果」について考えていく。

有機物投入の
経営としての心構え

昨今は有機物や鉱物資源からの有効成分の抽出、緩効性肥料の開発が進み、急速に作物に効く資材が増えたように感じる。技術的な視点で考えると、各々の農法があり、その効果は賛否両論であろう。ここでは、そのことには触れない。
大事なのは、化学肥料などの原料調達の多くが国内では不可能だと知っておくことである。経済的な事情で、高騰した場合、輸入原料にすべてを依存していては、作物の生産は困難になるし、生産量はガタ落ちになる。そうなれば、仕方がないでは済まされない。
そこで、我が国が過去に経験した循環農法をお手本に、有機物の投入と化学肥料の活用を上手に組み合わせることを、いま一度目的としてはどうか。高度経済成長の時代、化学肥料は「金肥」とされ、よく効き生産力が飛躍的に向上したようだ。先人たちの有機物の利用に、新たな施肥技術がもたらされた結果であろう。もし、その先人たちの積み立てた貯金を食いつぶし、化学肥料の多投でしか生産力が維持できないとしたら、現在の生産力が頭打ちであると感じる一つの要因は、土づくりの怠り=有機物投入の不足でなかろうか。多収による土壌養分の収奪と農地の荒廃は、世界的に見ても明らかなことであるのだから。

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