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なぜ、浸透圧の説明をしたかというと、作土層の深さが違えば、同じように肥料を与えても、浸透圧に違いが生じることを伝えたかったからだ。作物にとって養分は重要だが、もっと重要なのは水分である。発芽の際にも水分の少ない種子に水が浸透することがきっかけになる。成長した作物は根からも水を吸収する。ここで、根の周辺の養分の濃度が作物の体内より高いと、水は作物の外側に移動しようとするため、作物が水を吸収しにくくする力がはたらくということになる。
土壌に肥料を与えれば、土中の養分濃度が高くなる。作土層の深さが30cmだと、10cmの場合に比べて土の量が3倍になるわけだから、同量の肥料でも養分が均一に広がった場合には濃度が必然的に低くなる。浸透圧も低く、作物は水分を吸収しやすい状態である。
一方、作土層の深さが10cmであれば30cmより当然乾燥しやすく、水分の蒸散によりさらに土中の養分の濃度が上がりやすくなる。ということは、水分が少ないことに加えて、浸透圧が高くなることにより土壌中の水を吸収しにくくなる。作土層の拡大、あるいは耕盤を作らず深いところまで根を張らせるという意味には、このような側面もある。
ここまで書いたのはあくまで概念的な話であり、実際にはこのような簡単な話ではないのだが、これまで土壌を面的にとらえ続けてきたならば、土壌の作土層の深さを加味した考え方が必要になるだろう。特に土壌の物理性に着目して土壌改良を行なう場合、根の張る深さとの兼ね合いも考えていただきたい。
単純に考えると、土壌改良は、作土層が浅いほうが有利である。土壌改良材にしても、緑肥にしてもあらゆるものは、面積当たりの投入量が同じなら、作土層が浅いほうが土壌改良効果を得やすいためだ。このように土壌改良や施肥にしても深さの概念をとりいれると土壌に対する考えたかが非常に広がりやすい。
土を動かした後に
「なじませる」理由
さて、土壌に対してもう一つの要素、時間の経過を加えてみよう。どういう意味だろうかと疑問に思われる方も多いと思うが、土壌を動かした後の時間経過のことである。
割と年を召されたいわゆる“土づくり名人”といわれる方から、「なじませる」という言葉をよく聞く。プラウなどを使って大きく土壌を動かした後に、時間をおいてから次の作業を行なうことを指している。今は、効率が優先されたり、作業に追われたりするので意識されなくなっているが、実はかなり重要だと思う。
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岡本信一 オカモトシンイチ
(有)アグゼス
代表取締役社長
1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、 北海道の農家にて農業研修。派米農業研修生として2年間アメ リカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年 農業コンサ ルタントとして独立。 1998年(有)アグセス設立代表取締役。農業 法人、農業関連メーカー、農産物流通企業、商社などの農業生 産のコンサルタントを国内外で行っている。講習会、研修会、現地 生産指導などは多数。無駄を省いたコスト削減を行ないつつ、効率の良い農業生産を目指している。 Blog:「あなたも農業コンサルタントになれる」 http://ameblo.jp/nougyoukonnsaru/
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