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新・農業経営者ルポ

養豚業と家畜商で年商26億円を稼ぐ女性経営者

今回の主人公は、熊本県内で企業養豚を展開するセブンフーズ(株)代表の前田佳良子。2006年から急速に規模拡大を進め、年間出荷頭数5万頭、年商16億円を超える一大農業法人に成長させた。同時に家畜商をなりわいとする(株)セブンワークスの代表も務め、グループ両社で26億円を売り上げるやり手の女性経営者である。 文・写真/窪田新之助、写真提供/セブンフーズ(株)
家畜商として養豚業界へ

JRの熊本駅と大分駅を結ぶ豊肥本線の肥後大津駅から車で北に向かうことおよそ20分。山道に差しかかってきたな、と思い始めたところに豚舎が見えてきた。
その入口付近にある一軒家のような事務所の玄関で出迎えてくれた女性経営者は、凛としていて、隙がない雰囲気を持っていた。ただ、取材を始めるとすぐに笑顔を見せながら打ち解けて話をしてくれたので安心した。最初に感じた印象は、畜産業界という男の世界で生きてきた証なのだろう。経歴を聞くにつれ、そう思うようになった。
前田は大学卒業後にレストランチェーンで栄養士になったものの、3年後に脱サラして転身したのは家畜商だった。家畜商というのは牛と豚、馬、めん羊、山羊の売買人のことである。
前田がその世界に入ったのは父親の影響が大きい。父親の合志一也は九州では名うての家畜商だった。大手肉卸のスターゼン(株)には九州管内で唯一専属契約をするほど認められていた人物である。それだけに相当の頭数をさばいていたわけで、前田も18歳で大学に入学すると同時にその仕事を手伝うことになった。
「学校に行くために家を出ると、毎朝、目の前にトラックの2t車が付けてあるんです。荷台に積んであるのは10匹ぐらいの豚。父親が早朝に仕入れてきたんですね。それで私はトラックに乗って南熊本の屠畜場に運び、豚を卸してくる。大学はそこから歩いていける距離にありましたから、トラックはそのまま置いておき、学校が終わったら屠畜場に戻って家まで運転して帰っていました」
「毎朝」というのは決して誇張ではない。試験があろうが同級生との旅行があろうが、あるいは謝恩会の日でさえも日課は日課であったという。
「何しろ謝恩会の日に私は白の振袖姿で屠畜場に向かいましたから(笑)。さすがにその格好で荷卸しはできないので、場内にいる人たちに缶コーヒーをおごって代わりにやってもらいましたけど。その後に謝恩会の会場にタクシーで向かいましたよ」
こうした話を屈託なく話すことでもわかるように、前田にはその手伝いが嫌だとか、辛いとか、恥ずかしいとかいう気持ちはなかったそうだ。
「父からもらうアルバイト代も良かったですしね。また、そのトラックで同級生を実家の天草まで送っていったり、同級生たちと屠畜場の前で待ち合わせて日帰り旅行をしたりと、楽しく過ごしていました」

わき出した事業意欲

このころ、前田の心にはすでに事業に対する意欲がわいていたようだ。毎日のようにトラックを運転し、車窓から街の様子を眺めながら、時にこんな計算をすることがあった。たとえば、建ったばかりのビルを見かけたとする。ファッションビルでも飲食店ビルでもなんでもいい。とにかく新築の建物を見つけると頭は急に回転を始め、その建築費用や耐震強度、出店した場合の売り上げなどを割り出していくのだった。

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