記事閲覧
【新・農業経営者ルポ】
虫の目・顧客の目・地域の目で農業を視る百姓の心意気
- 小川幸夫
- 第125回 2014年11月28日
- この記事をPDFで読む
文/清水泰、写真/永井佳史、写真提供/小川農園
ミツバチの出迎え
小川農園は、東京に近接する千葉県柏市の住宅街の一角にある。道路を挟んで農園の向かい側にある自宅の敷地に足を踏み入れると、小川より先にミツバチが出迎えてくれた。
小川は、30箱の巣箱で日本ミツバチと西洋ミツバチを飼育している。イチゴ栽培の受粉用に養蜂家からレンタルしたのが最初で、その後購入・繁殖するようになった。いまでは受粉での活用からミツバチの特性に興味の中心が移り、観察や保護が主目的になっている。蜜は販売せず、自家消費もほとんどしていない。ただ、農園にたくさんのミツバチがいることで受粉が活発化する。
「ハヤトウリなんて10株しか植えていないのに、昨年の倍の2000個収穫できました」
筆者の目の前では、ガの幼虫のスムシにやられて崩壊した日本ミツバチの巣板を攻撃性に勝る西洋ミツバチの群れが盗蜜している。弱った日本ミツバチは抵抗を諦め、隅で固まったまま。小川は、「わざと襲わせているんです」と事もなげに言う。
このままではスムシに蜜を全部食べられてしまうが、西洋ミツバチに襲わせることで蜜が移動する。西洋ミツバチの巣箱に集められた蜜は、小川の手で日本ミツバチに分け与えられる。人工的な共生だ。
と、そこにミツバチの蜜を狙って1匹のオオスズメバチが飛んできた。身構える筆者に小川は「針のないオスだから刺しません。最近は飛んでいてもオスとメスの区別がつくようになりました」と言い、そっと捕まえて両手で包み込んだ。ひとしきりオオスズメバチの解説を終えると、両手を開いて空に放った。小川は、頼まれてどうしても駆除しなければならない"スズメバチ"の巣だけは生け捕りにし、焼酎やハチミツ漬けにしたり、冷凍保存したりしている。
だが、都市近郊のオオスズメバチは「危険」だとして、真っ先に駆除されてしまう。その結果、オオスズメバチを天敵とするスズメバチが増殖する。ハチ界の生態系の乱れは昆虫や植物に及び、ひいては生態系全体のバランスを崩すことになる。
将来的にはミツバチも地域の生態系を守る活動に役立てたいという。
「蜜を売って得たお金は、街路花を植えたり、地域の花愛好家たちの活動資金として使ってもらいたい。この地域の花が豊かになれば、ミツバチが増えて採取する蜜も増え、結果的に地域農家の受粉もより活発化します」
会員の方はここからログイン
小川幸夫 オガワユキオ
大学卒業後に農業機械メーカーへ入るも、自身が思う理想の農業を目指すため、2001年に千葉県柏市の実家の農業を継ぐ。畑は1町5反、うち4反がビニールハウスで年間100品目の野菜を生産している。 20年前まで地元の市場に個選でネギを出荷していたが、ネギの価格が低迷したことを受けて自宅裏に直売所を設け、色々な野菜を作って地元の消費者に販売するようになる。現在は地元の百貨店や高級スーパーにコーナーを構えてもらっての販売のほか、大型直売所や年間200回以上の朝市での販売、また地元レストランをはじめとしたくさんの飲食店に野菜を供給している。
農業経営者ルポ
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)