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新・農業経営者ルポ

虫の目・顧客の目・地域の目で農業を視る百姓の心意気


柏市の大規模な直売所「かしわで」、個人経営の飲食店15~20軒、地元の高級スーパー「京北スーパー」の1店舗。京北スーパーでは、「小川さんの野菜」コーナーが設けられている。また、総菜の食材としてデパートの高島屋柏店とも取引がある。
最も注力している販路は朝市で、6カ所で年間200回ほど出荷する。平日に加え、週末はたいてい数カ所を移動して回る。以前は都心の朝市にも出荷していたが、制約の多さや移動効率などを考慮してやめた。
売り方や値付けにも独自のこだわりがある。
いまの季節ならたとえばサトイモ。「土垂」や「八頭」といった品種別はもちろん、大きさの大小、親芋、子芋、孫芋やズイキ、セミなどの部位別に分けられ、それぞれ異なる値段が付けられている。無農薬をウリにしてはいないため、基本リーズナブルな値付けだ。たいていお客さんは「なんで値段が違うの?」と質問してくる。
「子芋は食べられるけど、ひ孫芋になると柔らかすぎてあまりおいしくない。いま一番おいしいのは孫芋で、だから値段も高め。八頭の子芋は小さいけど、他のより高めなのは、昔は衣かつぎといったら八頭と決まっていたから。いま料亭で八頭の衣かつぎが出てきたら、相当な高級店なんですよ。その八頭の中心近くから出るズイキは生で、この時期の一瞬しかないものだからこの値段なんです」
野菜づくりのプロとして顧客が知らない情報込みで売る。対面販売はそのための必須条件で、顧客が小川の野菜を買うメリットもそこにある。商品になるまでの手間や思いが伝われば、値段への納得感も増す。
会話を通して顧客から生きた情報を得ることも少なくない。小川が圃場に土着させ、管理したい雑草の一つにノヂシャがある。欧米では若葉がサラダに使われている。
「お客さんにノヂシャの話をしたら、『あそこの川辺に生えていたわよ』と自生場所を教えてくれたんです。自生環境に近い状態を再現すれば、圃場で定着・管理できるかもしれない。農家に聞いても自分で調べてもわからない情報です」
小川は「野菜を売るより会話している時間のほうが長い」と苦笑するが、それでも短時間で売り切り、次の場へと移動する。売り方や時間の制約などを受けないのは、小川が2、30人の農家とともに市と交渉して実現させた朝市だからだ。運営主体だからこそ自分たちの都合を優先できる。場を守るために採算度外視で開催することもあるという。

生物多様性の一翼を担う

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