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編集長インタビュー

著書『スマート・テロワール 農村消滅論から大転換』上梓に際して伝えたいこと

昆吉則(本誌編集長) 松尾さんの著書についてお話をうかがいたいと思います。まず、『スマート・テロワール』に込めた意味から教えてください。 松尾雅彦 「スマート・テロワール」の「スマート」とは、賢い、利口な、無駄のないという意味です。農村部の住民が参加して、農村の地域社会を創ることを「スマート」という言葉で表しました。「テロワール」は、産地の特徴を活かした地域の概念です。よくワインやお茶などの産地に使われる言葉です。二つを組み合わせて「スマート・テロワール」としました。
みなさんは普通、日本の社会を都道府県や8つの地域で区分しますよね。私は、全国の市町村を大都市部と農村部と中間部という3つに分けました(図参照)。これは、私のオリジナルの考え方の一つです。3つに分けてみると、大都市部に4300万人、農村部に4300万人、中間部に4200万人が住んでいることがわかります。
このように三分割することでいろいろな発見があります。東京都と20の政令指定都市、その周縁部の人たちは、農地がないので世界中から原材料を取り寄せて食の体制を整えています。周縁部では大都市の需要に応える使命があるため、果菜類など収益性の高い農業をしています。一方、日本の79%の農地がある農村部の4300万人は、自給することが経済的に地域社会を守ることになります。これを自給圏と呼びます。
しかし、いま、農村部の人たちは他地域でつくられたものを食べています。地方のスーパーマーケットで販売されている食品の70%以上が他地域のものですね。
農村の問題を解決するには、東京一極集中の対極となる「スマート・テロワール」の自給圏を形成することを最優先すべきです。

流通革命によって
地域内流通からグローバル流通へ

昆 現在の農村の問題とはなんですか。
松尾 農村の問題、あるいは日本全体の問題は三つあります。一つ目は人口減少です。人口減少の要因が少子高齢化にあるという識者の判断は間違いで、実は農村から都市へ人が流出しているということが問題なのです。二つ目は、昭和40年ごろから続いてきた流通革命です。この流通革命によって農村の地域内での流通が破壊され、地産地消ができなくなっています。三つ目は、これらの「不都合な現実」は政府が実行してきた政策によって起きているのに、その政府が主導でまた解決策を実行しようとしていることです。経済というのは、基本的に政府が手を出せば失敗するものです。諸外国でもそれは共通しています。
昆 開発途上国の段階であれば、国や官が主導することもあり得ますが、そういう時代は終わっているということですね。
松尾 成熟した国家で、政府が口を出すと国はだめになるのです。
昆 地域創生のために、また助成金をばらまこうとしていますが、問題をより深刻化させてしまうことになりますよね。
松尾 地域はそれぞれが他にはない特色を持っているので、その地域の人たちが自らビジョンを創らないといけません。
昆 官による支配には限界があって、地方が主体的にやらなくてはいけないということは、頭のどこかにあっても、そう動かない現実があると思います。国がなんとかしてくれるのを待っている感じがしますよね。
松尾 都市にも考えない人たちがあふれてきています。政府の景気対策は都市の政策なので、一つ目の問題で指摘したように、農村から都市に人が流出してしまいます。結果として都市は過剰人口を抱え、農村には人口減少をもたらしています。
昆 二つ目の問題として挙げられた流通革命による問題とはどんなことですか。

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