ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

海外レポート

米国食農紀行(3)貧困との戦い(続)食料不足の解消に向けて


所有している土地は実に1300エーカー(530・5ha)に及ぶ。もはや見渡す限り自分たちの農場といった感じで、筆者らがいる場所からは緩やかな起伏の牧草地のずっと向こうに森が広がっているのが見えた。それだけ広大な規模でありながら野菜を作っているのはわずか6エーカー(約2・5ha)だけで、残りについては家畜を放し飼いにしたり、飼料作物を作ったりしている。飼っているのは牛が270頭、豚が5頭、鶏が20羽である。
フォクス・フォロウ・ファームはその歴史が8年とまだ浅い。それ以前は数十年にわたって近くの農家に農地を貸していた。その農家は化学農薬と化学肥料を投じながら大豆や小麦、トウモロコシなどを作ってきたため、農地を戻してもらったときには土壌がガチガチに硬くなっていて驚いたそうだ。土壌学に詳しい人物を技術顧問に雇って相談したところ、返ってきた答えは「この土には生き物も菌もいない。だから、まずは牛を連れてきましょう。とくに雌牛のふんはほかのいかなる動物のものより栄養が豊富ですから」だった。
その人物の説明によれば、放牧した牛はふんを落とす。牛はふんが落ちた土の上を歩きながらひづめで耕す。そうして土が生き返り、虫や動物たちも戻ってくるというのだ。そんな昔の話を振り返っている途中で、ジェニーさんはふと周りを見るのを促すように問いかけてきた。
「ほら、みなさん聞こえるでしょ。鳥たちのさえずる声が」
そう言われてみると、鳥たちがあちこちで弾むように鳴き声を響かせている。見上げていると、鳥の群れがあちこちを飛び回っているのに気づいた。まるでレイチェル・カーソン著『沈黙の春』の世界である。
「この農場には鳥の声を聞かないと芽生えない花があるのよ。バイオダイナミック農法ではそうやってすべての生命がかかわりを持っている。いわば農場は一つの生命体。それぞれがなんらかの臓器であって機能を持っていて、いずれも健康でないと作物が満足に取れないようになっているのね」

地域で農業を支えるCSA

では、こうした世界観のなかでどのように農業生産が行なわれているのだろうか。野菜を作っている6エーカーの畑は次のように二つのプログラムに分けている。
一つは2エーカー(約80a)ある一般向け畑で、その収穫物は近隣で週2回開催されるマルシェで売るほか、レストランと売買契約を結んでいる。
もう一つは4エーカー(約1・6ha)あるCSA向けの畑。CSAというのは「Community Supported Agriculture」の略で、一般には「地域で支える農業」と和訳される営農形態である。具体的には、地域内で消費者が農家から自分たちで消費するための農産物を直接購入するシステムを指す。

関連記事

powered by weblio