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【エクセレント農協探訪記】
秋田県・大潟村農協
- 土門剛
- 第9回 1996年06月01日
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貸出金利を破格の低さに設定し
農家の事業バックアップに徹する
倉庫と資金。この2つが米流通の基本である。このことは専門家の間でも意外と理解されていない。それも無理のないことである。政府が、米の生産と流通をがんじがらめに規制していた旧食管法時代には、米の卸業者ですら倉庫と資金を心配する必要は何もなかったのである。すべて国が面倒をみてくれたからだ。
時代は新食糧法である。これまでおろそかにしてきた倉庫と資金が米流通のポイントになり始めた。有力卸業者は、産地の倉庫を買い始めた。商人系集荷業者が地元金融機関とタイアップする動きもある。対抗上、農協も独自の動きを見せ始めたようだ。
【仮渡金の原資に農協貯金】
この4月中旬のことである。大潟村の友人から筆者に1本の電話がかかってきた。大潟村農協の佐藤正孝組合長が上京した時に食事をしないかという打診である。大潟村には年に1、2回は定点観測のつもりで訪れる。いつも接触するのは自主作付け派ばかりだ。いわゆる「ヤミ米派」である。その意味では農協組合長は正規軍になる。その正規軍の組合長との会食と打診された時は、正直いって面食らってしまった。いったい何を話してよいものやらと逡巡していた。
しかしこれは滅多にない機会である。ほどなく「OK」の返事を出し、組合長に会ったら一つだけアドバイスをしておこうと思いついた。米の仮渡金の原資に農協貯金を充てることである。以前から、農協が米流通で利益を上げる最短コースだと考えていたからだ。そんな大それた気持ちで佐藤組合長に会いに出かけた。知ったかぶりで仮渡金の話を持ち出したところ、脳天にハンマーの一撃を喰らってしまった。組合長曰く。
「仮渡金の原資に農協貯金を充てることは、実は7年産からやり始めましてね。今年で2年目になります。30万俵分のうち、10万俵分を対象にしています。それでちょうど1億円ぐらいの金利収入がありました。農協資金を使った効果は抜群でしたね」
農協は、7月中旬、その年に収穫する自主流通米代金の一部を農家に支払う。これを米の仮渡金という。米生産農家の生活に必要なつなぎ資金のようなものである。仮渡金の精算は農家が米を出荷した後の11月頃のことである。その間、仮渡金に金利や手数料がかかることは言うまでもない。
米流通で資金がポイントとなるのは、こうした事情があるからだ。
自主流通米の仮渡金は全農が扱う。その原資は農林中金から借りてくる。その資金ルーツをたぐれば、信連や農協を通じて組合員農家から集めた貯金ということになる。これを整理すれば、組合員農家が農協に預けた金が信連、農林中金に流れ、そこから全農は資金を借り経済連、農協を通じて組合員農家に払われるという資金の流れになっている。
これだけ多段階になれば、問題は金利と手数料だ。農協、信連、農林中金段階では金利がかかり、全農、経済連は手数料を取っている。大潟村農協が30万俵すべてを対象にせず、10万俵分だけにしたのは、信連や農林中金の金利や、全農と経済連手数料がなくなることを配慮してのことである。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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