記事閲覧
米価暴落はくぐらざるを得ない「天国への門」
不思議なことがあります。講演で「07年産から減反の仕組みが大きく変わり、減反は損得で判断するようになります。損得の判断の一つが補助金ですが、補助金をもらった方が得だと思えば、減反に参加すればよく、フル作付けした方が得だと思うなら減反する必要はありませんよ。皆さん、このことご存知ですか」と逆質問しますと、たいがい「初めて聞いた」と答えてくるのです。どうやら農協と行政は、07年産からの択減反を意図的に隠しているようですね。
もう一つ見逃せないのは、減反事務での行政の役割です。従来のように、農協職員とセットで農家に減反を呼びかけていた行為はイエローカードになります。減反は、あくまで「生産者団体が主体的に取り組むこと」が基本方針で、行政はアドバイス程度の関与しか認めないようにしたのです。
これは意外とインパクトがあるかもしれません。いまの農協には、組合員に減反を協力させるような力はすでにありません。これまでは、行政に関与してもらって、減反があたかも「国策」であるかのような錯覚を農家に与えてきたわけです。いわば水戸黄門の印籠です。その印籠を取り上げることにはなりませんでしたが、威光が鈍ることになるでしょう。2010年産はもっとフリーになる。
そうなれば、もう誰も減反に協力はしないでしょう。米価暴落はいずれは避けられないことなのです。でも皆さん、米価暴落、一度はくぐらなければならない「天国への門」なのです。
兵庫・明石市の八大龍王社に、燃え残った灰の上を裸足で歩く「火渡り」という荒行があります。毎年5月5日に、厄除け開運を願う採燈護摩供が奉修され、燃え残った灰の上を裸足で歩きます。山伏が護摩をたき、まだ煙が立つその灰の上を参拝者は、それぞれの願いを胸に一歩一歩踏みしめ身を清めるのです。
日本のコメも、燃え残った灰の上、つまり米価暴落を乗り越えてこそ、強い農業に脱皮することができるのです。農水省は、足の裏に水ぶくれができるから可哀想などと温情を示したりして、荒行を中止させてはなりません。また荒行を実施すると言いつつ、誰も見てないところで燃え残った灰に水をかけておくようなズルをやってもいけません。
会員の方はここからログイン
土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)