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江刺の稲

日本農業を守る「攻め」の戦略的思考

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第121回 2006年03月01日

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生研機構の中央農業総合研究センターの北陸研究センターが、2005年から遺伝子組換え稲の野外ほ場実験を開始したことについて、一部地元生産者と消費者が研究の中止を求めていた問題で、最高裁は1月16日「債権者側の主張は憲法問題に当らない」として特別抗告を棄却した。
 生研機構の中央農業総合研究センターの北陸研究センターが、2005年から遺伝子組換え稲の野外ほ場実験を開始したことについて、一部地元生産者と消費者が研究の中止を求めていた問題で、最高裁は1月16日「債権者側の主張は憲法問題に当らない」として特別抗告を棄却した。ところが、05年12月に原告側は06年度の実験中止を求める別の申し立てを新潟地裁に行なった。今度は、歌手の加藤登紀子氏や漫画家のちばてつや氏も原告に加わっている。

 実験は北陸研究センター内の1a分の隔離圃場で行われている。カラシナから取り出した病原菌に抵抗するディフェンシン遺伝子をイネに組み込み、いもち耐性を持つイネを作ることが実験の目的である。これに対して原告側は「実験稲と生産者稲が花粉交雑することへの懸念」「実験稲から発現するとされるディフェンシン耐性菌が生産者農地に流入する」などの申し立てを行なったが、新潟地裁は「花粉交雑では実験圃場全体を布で覆うなど十分な防止措置が取られている」「ディフェンシン耐性菌の出現や増殖の事態が生ずる裏付けや根拠が示されていない」と原告側の主張を退け、申し立てそのものを棄却した。それを受けて原告側は東京高裁に抗告を行なったが、高裁は地裁決定を支持。さらに原告側は「適正な裁判を受ける権利を侵害され、憲法32条に違反する」として最高裁に特別抗告を申し立てていたもの。そして加藤氏らなのだ。

 本誌ではウルグアイなどの適地で、Made by Japaneseによる良質日本米の生産を乾田直播で実現し、世界ブランドとして定着させ、欧米やアジアの短・中粒種市場を席巻しようと呼びかけている。カリフォルニアやオーストラリアで行なわれる湛水直播で容易に栽培できる日本品種が開発される前に、ウルグアイでの乾田直播で低コスト生産を実現しようという戦略だ。それが、構造改革を前提とした日本国内の稲作りを守ることにつながると考えるからだ。

 この戦略を考える背景には、こんな日本稲作の終末予測も有り得ると思うからである。

 食味の高い日本品種はカリフォルニアなどで行う湛水直播では、たこ足苗になり倒伏し、脱粒性の悪さから普通型コンバインでは収穫ロスも大きい。したがって、現状ではカリフォルニアの生産者の多くが取り組むメリットが少ないと考えている。しかし、コシヒカリの食味をそのままに、根に直根性を持たせ、脱粒性も改善させる育種がカリフォルニアで進められたらどうだろうか。除草剤耐性や各種の病害耐性を持たせるなどの遺伝子組換えを使った品種開発は当然行なわれるだろう。その時、日本のコメ作りはどうなるのか。

 一部の運動家やメディアの遺伝子組換えの不安を煽る報道もやがては変化する。そう考えるのが冷静で理性的な判断だろう。今でこそ過剰な不安を持たされている消費者たちも、現在のようなナイーブさを持ち続けるのだろうか。「日本農業を守れ」「水田農業を守れ」と叫びながら、我が国の農業界あるいは農林行政は守りの貿易交渉と国内対策以外に戦略的に有効な対応をとっていない。

 海外適地でのMade by Japaneseによるコメ生産だけでなく、除草剤耐性稲やいもち耐性稲など遺伝子組換えの研究開発や管理された現地適応試験もさらに積極的に取り組むべきなのである。日本農業を本気で守る「攻めの戦略的思考」が農業界に出てくることを期待したい。

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