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江刺の稲

困難の今こそが日本コメ産業の曙である

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第119回 2006年01月01日

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失礼ながら、今、コメ経営者たちが浮き足立っているように見える。今の事態になるのは93年のウルグアイラウンド農業合意を受け入れた時から想定されたことだ。
 失礼ながら、今、コメ経営者たちが浮き足立っているように見える。今の事態になるのは93年のウルグアイラウンド農業合意を受け入れた時から想定されたことだ。

 その間、農水省・政府は敗北主義から抜け出せず、日本の稲作が世界との競争に勝ち残るためのシュミレーションを示そうとはしてこなかった。政治家や農業団体を気遣いつつ日本のコメ農業を安楽死させる政策を取り続けてきた。

 日本の稲作農業の世界は、敗北主義、弱者の立場に立ち続けることで保護の根拠が与えられてきた。しかし、その過剰な保護が自家中毒のごとくに自らを衰弱させてしまった。その保護政策は、兼業稲作農民という農村在住サラリーマン家庭の豊かな暮らしと農業関係者に居場所をつくり、「守れ」という掛け声が高まれば高まるほど、稲作農業経営の体質を弱めてきた。その中で、稲作経営者自身もまた、その農業保護に安住してはこなかったか。自己改革を怠ってはいなかったか。

 仮にそうであったとしても、これまでの政策依存の農民的存在を卒業し、マーケット(顧客)に支持されることを目指し、産業人としてのあたりまえの技術・経営革新に取り組むなら、日本のコメ経営者の未来は明るい。

 今こそ稲作経営者は、戦略的な経営革新と技術革新に取り組むべきである。その戦略とは、(1)海外市場を含めて食味の良さを前提にした満足を売る戦略的コメ・マーケティングへの取組み。(2)単なる規模拡大に止まらぬ技術革新によるコストダウン。(3)マーケットニーズを前提とした畑作物への取組み。そして(4)“Made by Japanese”(メイド・バイ・ジャパニーズ。世界市場を対象とし、海外生産拠点で日本人農業経営者による農場経営)。世界市場におけるコメは、もっとも差別化が容易な農産物であり、市場規模拡大の可能性を秘めている。さらに、(5)それらの戦略を実現していくために必要な、水田農業技術革新としての乾田直播への取組みである。

 10月号の乾田直播の特集でも書いた通り、わが国の04年の水稲作付面積、約117万haのうち、直播栽培は約1万4千haに過ぎず、まだ1%にも満たない。なぜなのか。その理由は技術の困難などではなく、過剰な保護が稲作経営者に経営改善の必要を感じさせなかったからである。

 すでに本誌読者にも、無代かき田植えから始まり乾田直播に10年以上も取組み、安定した高収量を上げている人々もいる。やればできるのだ。

 何度も言うが、日本の稲作は世界の標準から言えば、まだスタートラインにすら立っていない。でも、日本品種の最高品質を知る日本の稲作経営者たちの潜在能力は、他国の生産者とは比較にならないほどに高い。欠けるものがあるとすれば、それは安楽さの中で忘れているハングリーなチャレンジ精神である。やがて、日本のコメ産業は世界のコメ市場に君臨する存在になると筆者は確信する。今こそ「日本コメ産業の曙」なのだ。まだ遅くなどはない。敗北主義を捨てよう。

 この原稿を書いている段階で日程や場所はまだ決っていないが、乾田直播による稲作の技術と経営革新と、それにともなう国内でのコメ経営改革、メイド・バイ・ジャパニーズによる海外でのコメ生産をテーマとした研究会を、急遽1月に実施すべく計画中である。FAXやメールでそのご案内をするつもりだ。皆様の奮ってのご参加をお待ちしている。

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