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江刺の稲

主体なき「経営論」の不毛

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第18回 1996年08月01日

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売れないセールスマンの弁解は決まっている。彼はいつも「売れない」理由を数え上げる。いや、「売る」ことをしないための理由探しなのかもしれない。「値段が高い」「競争が激しい」「お客が少ない」「お客が理解してくれない」「時期が悪い」「商品が悪い」等々、売れない理由は幾らでもあげられるものなのだ。しかし、同じ条件の中で売る人がいる。その彼は売れない理由を数え上げるのではなく、その条件の中でどうしたら売れるかを考えるからだ。売れないセールスマンが売れないのは、売ろうとしていないだけなのだ。やればできるのだ。このことを、本号の「女の目で見る農業経営」に紹介された三嶋八重子さんの話を聞いて思い当った。
 売れないセールスマンの弁解は決まっている。彼はいつも「売れない」理由を数え上げる。いや、「売る」ことをしないための理由探しなのかもしれない。

 「値段が高い」「競争が激しい」「お客が少ない」「お客が理解してくれない」「時期が悪い」「商品が悪い」等々、売れない理由は幾らでもあげられるものなのだ。

 しかし、同じ条件の中で売る人がいる。その彼は売れない理由を数え上げるのではなく、その条件の中でどうしたら売れるかを考えるからだ。売れないセールスマンが売れないのは、売ろうとしていないだけなのだ。やればできるのだ。

 このことを、本号の「女の目で見る農業経営」に紹介された三嶋八重子さんの話を聞いて思い当った。

 三嶋さんは120頭の肉牛肥育経営。労働力は三嶋さん一人だけ。しかも三嶋さんの1日の労働時間は6時間である。昨年度の粗収益は950万円。これは肉牛と発酵おが屑堆肥の販売収入も含めた金額だ。所得では630万円だという。

 所得630万円という金額だけで見るならもっと大きな数字を上げる経営はたくさんあるだろう。しかし、ご主人は公務員、はじめは義父と二人、規模を拡大した後には二人の病身の老人を抱えながら女手一つでの収益なのである(こんな表現自体を三嶋さんは陳腐と思われるかもしれないが)。小さな規模ではあるが極めて効率の良い畜産経営だとはいえないか。

 餌ば粗飼料を含めて全て購入飼料である。しかも牛への給餌は3日に一度しかやらない。見回りは毎日している。それでも牛は穏やかで、臭いもしない。しかも家畜の共済はほとんど掛け捨て状態だという事故率の低さなのだ。糞尿はおが屑を敷料にして牛に踏ませて堆肥化し、全量外部へ販売している。5日に一度堆肥舎に運び、切り返し、袋詰めは手作業で近隣の主婦パートを頼んでやっている。機械化した方がコストは安いのかもしれないが地域のつながりを考えてあえて人手を頼んでいる。

 三嶋さんのやり方は、飼養管理技術の「常識」や「標準」といわれるものからすれば、「非常識」なのかもしれない。でも、常識的なやり方をしていたら牛飼いは続けられなかった。病身の老人二人を世話しながらも、牛飼いを続けていきたいと考えた三嶋さんのギリギリの工夫だったのである。

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