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【Opinion】
昨年、EUで登録されたジャガイモの新品種数は185!
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 2005年12月01日
EUで昨年1年間に登録されたジャガイモ品種数は185に上るという。EU加盟国の拡大に伴う増加も一部含まれるにせよ、この数には驚いた。日本に存在する品種数は、男爵など登録制度以前に育成・導入された品種を含めても150前後だ。わずか1年で、日本の総品種数より多くのジャガイモがEUマーケットに導入された計算になる。ちなみに、EUでの登録品種数の合計は2005年8月現在1049である。ヨーロッパでスーパーを訪問すると確かに、多様な品種を目にする。このバリエーションの豊かさの背景には、これだけの数の品種登録があるのだ。
では、誰がこれほどの品種を作っているのか。1の写真は、オランダの展示会で出展していた新興の育種会社のブースの様子である。出展していた育種会社は軽く20社を超えていたと思う。各社、新品種をショーアップし、訪れた生産者や種イモ業者、卸業者、加工メーカーにそれぞれ、特長を理解してもらおうとPRに必死であった。
育種会社の展示ブースで幹部に話を聞くと一様に、ジャガイモの消費量が毎年減ってきていることに危機感を募らせていた。92年に80kgあった年間の平均消費量が02年には75kgと、10年間で5kgも減っている。5キロにEUの人口4・5億人を掛ければ、どれほど消費量が減少しているのか容易に想像できるだろう。食の外食化や簡便化に伴い、とくに青果用の減り方が著しい。この状況を改善しようと育種会社が取り組んでいるのが、消費者の目をひく個性豊かな品種開発だ。現在のEUでの品種の豊富さについて、「ワインと同じで結構なことだ」とある人は表現していた。ワインのように、料理の種類や気分に合わせてジャガイモを選べる時代がやってきたということだろう。
とはいえ、開発に10年以上もの年月がかかる品種がなぜ、これほど短期間に増えたのか。10年以上前に起こった消費減退という現実に対して、民間の育種会社がいち早く開発に着手したからにほかならない。その成果が今、実を結んでいるのだ。
日本でもジャガイモ消費量が伸び続けている今こそ、新品種開発を加速化するときだ。あわせて既存の品種のPRももっと積極的にしていかなければ、宝の持ち腐れである。あるEUの育種会社に聞いたところ、新品種の広告宣伝費に対して、開発コスト以上の資金を投じているという。そうしなければ消費者に認知されず、結果、開発コストをペイできる品種の普及生産が実現しないからだ。この話を聞いて、公的機関での育種が多勢を占める日本では、そもそもいくらよい品種を作っても、責任をもって宣伝PRする主体が不在なことに気づいた。あるのは生産者への奨励と普及活動までだ。新品種の栽培に取り組む生産者が限定的な理由は、これで明らかだろう。
註)この原稿は、「ポテカル」2005年10月号(NO・13)から転載。
では、誰がこれほどの品種を作っているのか。1の写真は、オランダの展示会で出展していた新興の育種会社のブースの様子である。出展していた育種会社は軽く20社を超えていたと思う。各社、新品種をショーアップし、訪れた生産者や種イモ業者、卸業者、加工メーカーにそれぞれ、特長を理解してもらおうとPRに必死であった。
育種会社の展示ブースで幹部に話を聞くと一様に、ジャガイモの消費量が毎年減ってきていることに危機感を募らせていた。92年に80kgあった年間の平均消費量が02年には75kgと、10年間で5kgも減っている。5キロにEUの人口4・5億人を掛ければ、どれほど消費量が減少しているのか容易に想像できるだろう。食の外食化や簡便化に伴い、とくに青果用の減り方が著しい。この状況を改善しようと育種会社が取り組んでいるのが、消費者の目をひく個性豊かな品種開発だ。現在のEUでの品種の豊富さについて、「ワインと同じで結構なことだ」とある人は表現していた。ワインのように、料理の種類や気分に合わせてジャガイモを選べる時代がやってきたということだろう。
とはいえ、開発に10年以上もの年月がかかる品種がなぜ、これほど短期間に増えたのか。10年以上前に起こった消費減退という現実に対して、民間の育種会社がいち早く開発に着手したからにほかならない。その成果が今、実を結んでいるのだ。
日本でもジャガイモ消費量が伸び続けている今こそ、新品種開発を加速化するときだ。あわせて既存の品種のPRももっと積極的にしていかなければ、宝の持ち腐れである。あるEUの育種会社に聞いたところ、新品種の広告宣伝費に対して、開発コスト以上の資金を投じているという。そうしなければ消費者に認知されず、結果、開発コストをペイできる品種の普及生産が実現しないからだ。この話を聞いて、公的機関での育種が多勢を占める日本では、そもそもいくらよい品種を作っても、責任をもって宣伝PRする主体が不在なことに気づいた。あるのは生産者への奨励と普及活動までだ。新品種の栽培に取り組む生産者が限定的な理由は、これで明らかだろう。
註)この原稿は、「ポテカル」2005年10月号(NO・13)から転載。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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