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特集

このまま敗れるのか日本のコメ農家 PART 1 関税100%時代の己を知る

 今月、来月と2回に渡ってコメ生産を取り巻く世界の政治・ビジネス環境を分析する。まず、日本のコメは守られているという幻想を捨て「世界のコメ競争力MAP」の描く現実を直視していただきたい。これを示したのは敗北感を抱いてもらうためではない。まったく逆で、日本の農業経営者が、世界のコメ輸出国がターゲットとする日本という最も豊かな市場の渦中にいるという優位性を認識するため。そして世界に我らの活躍の場が広がっていることに気付くためでもある。 本稿制作時において、12月に開かれるWTO香港閣僚会議では、農産物の関税引き下げ率などの細目は盛り込まれない見通しだ。しかしこの問題の決着は、貿易を通じた経済拡大を命題とするWTOの存亡に関わるものであり、交渉の主要プレーヤーの間では上限関税100%以下での基本合意はできていることから、日本のコメだけを守る主張は跳ね除けられることは確実だ。ある程度認められたとしても、その見返りは大幅輸入増につながるミニマム・アクセスの拡大だ。対応策として直接支払いが語られるが、そこに安住する農業経営に未来がないことだけは確かだ。 今回は、日本のコメ農家がこの現状をどう捉えるべきか検証する。

WTO農業交渉で日本はなぜ孤立するのか


世界には通用しない日本農業国家の論理

 鉱工業分野を中心に、日本経済はWTOルールから多大の恩恵を受けてきた。しかし、国内農業保護を理由にさらなる交渉を引き延ばしにする政策は、交渉の主要グループから外れる憂き目につながり、交渉破壊の「戦犯」に指名されかねない状況になっている。今やその圧力は、海外からだけではなく、攻めをうちたい国内鉱工業分野からも上がる。


【輸入米増 ミニマム・アクセスが裏目に】

 世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が大詰めの段階を迎えている。焦点の農業交渉で日本政府は「コメなど日本の基盤的な農産物を輸入品から守ることは譲れない」との主張を繰り返すが「日本包囲網」は狭まっている。日本は鉱工業品分野で途上国の関税引き下げを実現する見返りに、農業分野で大幅な市場開放をのむかどうかの政治決断を迫られようとしている。

 ドーハ・ラウンドは2001年、ドーハで行われた閣僚会議で交渉を開始したことからこう呼ばれ、農業や鉱工業品の自由化ルールなどを幅広く協議している。昨年12月を交渉期限としていたが、交渉が難航したため、今年12月に香港で開かれる閣僚会議で関税引き下げなどに関する基本的な方式を決め、来年中に全分野で一括して協議を終える段取りとなった。香港閣僚会議はラウンド成功に向けた重要な節目と位置づけられている。

 日本は1955年にWTOの前身のGATT(関税および貿易に関する一般協定・ガット)に加盟して以来、ガットやWTOで決めたルールにより貿易の自由化の恩恵を世界でもっとも享受してきた国の一つと言われる。各国が関税率を引き下げたことで、日本製品の輸出競争力は高まった。統一的な貿易自由化ルールの整備なしに、日本の今日の経済的繁栄はなかったといっても過言ではない。

 ただ、農水省を含め日本の農業関係者にとって、ガットやWTOはいい響きの言葉としては受け止められていない。前の包括交渉のウルグアイ・ラウンドでは1993年、日本は強く抵抗していたコメの最低輸入義務(ミニマム・アクセス)を受け入れた。国内市場への影響を考慮した日本政府はコメの関税化を逃れる特例措置を選択。1995年に国内消費量の4%相当を最低輸入量として輸入し、輸入量を段階的に増やしていき、2000年に8%相当を最低輸入量とすることを約束した。

 その後、日本政府は1999年からこの輸入数量制限措置を関税措置へと切り替えた。コメにかかる関税を払えば、海外から日本への輸入が可能になったことを意味する。政府関係者は「ミニマム・アクセス米を継続するより、関税化を受け入れた方が輸入米は少なくなるとみていた」と振り返る。ある外務省幹部は「次のWTO交渉をにらめば、関税化を受け入れた方が交渉がやりやすいと判断した」と語る。

 日本は現在、年間約77万tのコメを輸入している。中国、アメリカなどは日本へのコメ輸出拡大を希望しており、コメの関税が大幅に下がれば、日本への流入増は確実。一方、関税化受け入れ時の「理想」と裏腹に稲作の構造改革はお世辞にも進んでいるとは言えない。コメなど高関税品目の存在が依然として「WTO交渉で日本の手足を縛っている」(外務省幹部)状況は変わらない。

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