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江刺の稲

敗北主義が農業を滅ぼす

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第118回 2005年12月01日

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今月号の本誌特集ばかりでなく、一般紙を含めWTO農業交渉問題がかまびすしく語られている。農業紙誌では、もっぱら敗北主義に立って日本農業の崩壊を嘆いている。中には香港閣僚会議が不調に終わることでホッとしているかのような呑気な記事も見えた。我が農業界について、「馬鹿じゃなかろか」というのが筆者の感想である。
 今月号の本誌特集ばかりでなく、一般紙を含めWTO農業交渉問題がかまびすしく語られている。農業紙誌では、もっぱら敗北主義に立って日本農業の崩壊を嘆いている。中には香港閣僚会議が不調に終わることでホッとしているかのような呑気な記事も見えた。我が農業界について、「馬鹿じゃなかろか」というのが筆者の感想である。

 ついに、その時が来てしまったのだ。毎度の事ながら、傲慢にしてせん越なことを書く。

 1993年12月14日の深夜。当時の細川総理大臣がウルグアイラウンドの農業合意を受け入れると記者発表した。その時点で、すでにこうなることは予想されていたことだ。少なくとも本誌は、それを見越して同年の5月に創刊したのである。

 いったい農業界は、そして農業経営者は、ここに至る間になにをやってきたのかと問いたくなる。

 93年に先立つ数年間、自民党から共産党まですべての政党は「一粒たりともコメは輸入させない」などと、あり得もしない空念仏を3回も全会一致で国会決議していた。

 当時、まだ票田たり得た農業・農協界を背景にしていた、わが国のリーダーたちは、およそまともに日本農業の未来など考えてこなかったことが、誰の目にも明らかだろう。

 語られてきた「農業問題」の本質とは「農業関係者問題」なのだ、と本誌は何度も書いてきた。すでにあたりまえのサラリーマン家庭となっている“農家”に対し、農家であることでもたらされる「利権」を餌に、農業を飯のタネにする本誌を含めた農業関係者が、己の居場所作りをしていただけだということだ。

 この事態を想定して大盤振る舞いされた6兆100億円という「ウルグアイラウンド対策費」はどうしたというのだ。それもまた役人と農協職員に無駄仕事をする材料を提供しただけではないのか。

 国としての農業保護を、輸入圧力に対する防波堤と考えるのは当然である。しかし、農業経営者たるあなた方が、政治家や役人や運動としての農協を利用するのは良いとしても、それに望みを託すというのなら、きっと失望することになるだけだ。もうそういう時代は終わってしまったのだ。すでに、彼らが果たせる役割は限りなく小さい。託すべきは市場であり、あなた自身のお客さんでしかないと考えるべきなのだ。

 また、この間、農業に関わるほとんどの者たちが言い続けたのは、諸外国と比べた日本農業の弱さである。しかし、何度も指摘してきたとおり、農業構造動態統計の「販売金額別農家数」に注目すれば、販売農家といわれる階層であっても、コメ単作では約7割の生産者の販売額(企業で言う売上)が100万円にも満たないのだ。自給自足の時代ならともかく、経費や手間を考えれば、産業とまで言わずとも暮らしの糧を得るための職業とは言えまい。

 もし、日本の農業人や食や農業に関わるすべての産業人が、当然の協力と競争の中で切磋琢磨したとしたら、日本農業は世界の農業市場の中で金メダルとは言わずともメダル獲得か入賞するくらいの実力を持ちえると筆者は確信している。まして、日本という最高に贅沢な市場のただ中で多様なビジネスチャンスに囲まれていることを考えるなら、意欲ある農業経営者はいささかも暗くなる必要などないのだ。

 その前提は、あなた自身が農業界の敗北主義から自由になることなのである。

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